エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 倉庫室から戻ると、天宮さんは面会にこられた家族への対応をしている。その会話を聞きながら、応対の仕方の勉強をしつつパソコンへと目をやる。
 カルテの整理をしていると、カウンター越しに影が落ちるのを感じた。

 「宮野さん、悪いんだけどこの患者さんのカルテに追記しておいてもらえる?あと、昨日入院した山本さんの検査予定確認したいんだけど」

 そう言いながら眠気覚ましなのか、ミント味のタブレットを口に放り込んでいるのは、確か昨日当直だったはずの水島先生。

 検査項目や薬剤の名前が書かれたメモを受け取りながら、検査予定をすぐにプリントアウトする。

 「水島先生、お疲れ様です。たしか昨日は当直でしたよね?」

 「そうなんだよ、今朝急変した患者さんがなかなか落ち着かなくてね。気がつけばもうこんな時間だった。さすがに眠いしそろそろ帰るよ」

 苦笑いしながら少し腕を伸ばしたりストレッチをしている。

 プリントアウトした紙を渡すとすぐに「ありがとう、宮野さんもお疲れ!」と颯爽と立ち去っていく。

 水島先生はどんなに忙しくても柔らかい雰囲気を保ったまま、周囲への気遣いも忘れないとても素敵な先生。手術の技術も高く、先生を指名してくる患者さんもたくさんいるそう。

 明日の業務の確認を終えると時計の針はちょうど六時を示し、私達は終業時間を迎える。よほど忙しいときや急な用事がない限り、あまり残業はない。

 周りは相変わらず忙しそうなので少し気が引けるけれど、天宮さんと一緒に立ち上がり挨拶をしながらロッカー室へと向かった。

 着替えをしながら、今夜の夕食と明日のお弁当の中身を考えていると「優茉ちゃん、駅まで一緒に行きましょ」と着替え終えた天宮さんに声をかけられ、思考を戻して振り返る。

 「あ、はい!」

 職員出口から出て、マスクをしっかり付け直しながら駅に向かって歩き始めた。外は日が落ちてもそれほど寒さは感じなくなってきて、そろそろコートもいらないかもしれない。

 この病院は木々や植物に囲まれていて都心ということを忘れてしまいそうな雰囲気があるけれど、最寄駅までは十分もかからない。

 「晩御飯なに作ろうかなー。優茉ちゃんも毎日自炊してるんでしょ?メニュー考えるのが大変よね」

 他愛ない話をしているとあっという間に駅に着き「お疲れ様!また明日ねー」と手を振りながら行き先が反対方向の天宮さんが階段を降りていくのを見送った。
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