エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 ここ最近、オペが続いた上に早急にやらなければならない仕事が立て続いた為、なかなか家に帰ることすら出来なくなっていた。

 もちろん優茉ともゆっくり出来ていない。ハグどころか話をする時間すら取れていない。
 それでも、変わらず毎日ご飯やお弁当を作ってくれている優茉のおかげで、体調は問題なく過ごせている。

 この数日は病院に泊まっているが、夜中にシャワーを浴びに家に戻った時、こっそり優茉の頭を撫でしばらく寝顔を見ていることは秘密だ。
 起きている彼女の顔は、人目のつかないところでサッとお弁当を渡してもらう時くらいにしか、まともに見ていない気がする。


 先日、家に帰ると優茉が涙を流していて、驚いた。そして彼女の涙を見た途端、あの時のことがフラッシュバックした。

 泣かせてしまった罪悪感にも似た苦い感情。

 一気にあの時の感情が押し寄せ、思わず抱きしめていた。泣かないでほしい、どうかもうあの時のような悲しい顔はしないでほしい...そんな気持ちでいっぱいだった。

 嬉し涙だったと分かり安心したが、同時に不思議そうな優茉と目が合い、俺は自分の行動を反省した。
 こんな事をしたって、あの時の優茉の悲しみを減らしてあげられる訳じゃないのに...。

 
 彼女がスキンシップに慣れ物理的な距離が縮まってきた今、次は心の距離もぐっと縮めたい。

 どうしたらいいかは分からないままだったが、電話で素直に声が聞きたかったと言ってくれたり、初めて優茉の方から俺にハグを求めて近づいてくれた時は、本当に嬉しかった。

 寝ぼけていたのかもしれないが、可愛過ぎて顔がニヤけるくらいに。今まで優茉の方から甘えてきてくれるなんてことは、一度もなかったから。

 いつも自分の事はきちんと自分でやっていて、しっかりと自立しているように見える。でも本当の彼女の心はどうなのだろう。
 本当は誰かに頼ったり甘えたりしたいのではないだろうか。優茉の性格なら、きっと小さい頃から周りに迷惑をかけないようにと、何かあっても溜め込んで我慢してきたんじゃ...?

 もしそうだとしたら、優茉が頼ったり素直に甘えられる環境を作ることが出来れば、俺の存在も需要があるかもしれない。

 そんな事を考えながら仮眠室で少し休憩をとり、また勤務へと戻った。


 優茉を守りたい、ただそれだけなのに、俺のせいであんなに辛い思いをさせていたなんて、この時の俺は知る由もなかった。
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