エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 七時ごろに帰宅すると、優茉は夜ご飯を作ってくれていた。

 久しぶりに優茉とゆっくり過ごせることが嬉しくて、簡単な手伝いをしながら料理中の優茉のそばにいたり、必要以上に見つめていたが、どこか彼女の様子がおかしい。

 なぜかあまり目を合わせてくれない上に、崩しかけていた壁をまたきっちりと立てられたように、態度はどこかよそよそしい。

 ...俺は何かしてしまったか?優茉の気に触るような何かを?
 考えても思い当たる節などないどころか、最近はまともに顔を見て話もしていなかった。

 ...それが原因か?縮めた距離も、もと通りに戻ってしまったのか?
 内心焦りを覚えながらも、表情には出さずに話を続けた。

 しかし、洗い物を終えた優茉の口からでた言葉は...

 「あの、私、一度家に戻ろうと思います。しばらく空けていたので掃除もしたいですし、服も薄手のものしか持ってきていなかったので...」

 そう言いながら、俺の様子を伺うように上目遣いでこちらを見ている。

 「じゃあ、俺も一緒に行くよ。荷物も車で運んだ方がいいし、掃除も手伝うよ」

 あえて理解していないフリをしてそう言ってみたが...

 「いえ、少し片付けもしたいので、数日はそっちに帰ろうかと...」

 やはり優茉の意思は固いようだ。

 本当は引き留めたい気持ちでいっぱいだが...、きっとここは彼女の意思を尊重するべきなのだろう。

 「わかった。じゃあ、荷物を運ぶ時は手伝うから必ず連絡して。
 あと、前から気になっていたんだけど、最寄駅から優茉のマンションまでの道は人通りも少ないし、夜一人で歩くには不安だ。時間が合えば送るし、何かあったら遠慮なく言って」

 そう言うと、優茉は少し困ったような顔をした後で笑顔をつくる。

 「大丈夫ですよ、毎日歩いていましたし。何かあれば連絡しますから、心配しないで下さい」

 ...目は笑っていない。無理しているような作った笑顔が、頭に引っかかる。
 けれど、優茉の真意を探る材料もない今の俺には、どうする事もできない...。
 
 物理的な距離が、心の距離と比例してしまったのか?
 今まで積み上げた物も、ゼロになってしまったのだろうか...

 考えても分からない。でも今は、無理に踏み込むよりもそっとしておいた方がいいような気がして、それぞれの部屋で過ごし優茉が眠った頃にベッドに入った。

 そっと頭を撫でその手を頬に添えると、安らいだ表情で擦り寄ってくる優茉。思わず抱き締めてしまい、寝返りを打とうとする彼女を腕に収める。

 やっと優茉に触れる事が出来たのに、またしばらく出来なくなってしまうのか...。

 いや、そもそも優茉はまたここに戻って来てくれるのだろうか...?もしかして、このまま同居を終わらせるつもりなのか...?

 そんな不安が頭をよぎり、優茉を離すことが出来ず、少し高めの体温を感じながら抱きしめたまま目を閉じた。

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