エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
朝、お腹に重さを感じて目が覚めた。なんだろうと起きあがろうとしても、身体が動かない。
だんだんと頭も起きて、耳元でスースーと寝息が聞こえる事に気がつき驚いた。先生の腕がしっかりと私のお腹に巻き付き、後ろからピッタリとくっついた状態で抱き締められている。
あったかい...。先生の温もりから離れたくなくて、完全に目が覚めてからもしばらくそのままでいた。
でも、これももう最後。ちゃんと離れないと。
ここを出ていくって決めたんだから。
麗奈さんが病院に来た次の日から、毎日のようにスマホにメッセージが届くようになった。
教えたはずがないのに、電話番号まで勝手に調べられていたことには本当に驚いたけれど、きっと彼女にとっては造作もない事なのだろう。
毎日送られてくるメッセージは、日毎に件数も増え、言葉も鋭いものに変わっていく。
すぐに別れて家を出なければ、香月総合病院との付き合いを切る。
私が先生をたぶらかし同居までしていた魔性の女だと病院で言いふらし、この病院で働けないようにする。
そんな内容から始まり、最近ではただ私を否定するようなものから、"祖父母のお弁当屋も悪評を流して潰す" "先生と別れるまでずっと監視している" など、ほとんど脅しのようなものになってきている。
さすがに、度を越していると思う...
どれも本気にしている訳ではないけれど、簡単に他人のスマホの番号や住所、家族の事まで調べるような人だ。
次は何をされるのかわからない。もしも病院に関わることをされたら、先生にも多大な迷惑がかかってしまう。
それだけは、絶対に避けないと...
簡単に相談できる人もいないし、どうしたらいいのかわからない。
でも、本当に監視されているのならとにかく理由をつけてこの家から出ないと。そう思い、昨夜久しぶりに早く帰ってきた先生に話をした。
腑に落ちないという表情をしていたけれど、とにかく家に戻る許可をもらえたのですぐに少ない荷物をまとめた。
先生に家まで送ってもらっては元も子もないので、今日は早く起きて朝食とお弁当を作り、先生が起きる前にマンションを出てきた。
仕事に行く前に、自分の家に戻って荷物を置く。そんなに経っていないはずなのに、家の中は薄暗く冷え切っていて、まるで色が無くなってしまったよう。
一気に温もりを失った寂しさが込み上げてきたけれど、時間がないので振り切るように厚手のコートだけを掴んですぐに家を出て病院へと向かった。
今朝は一段と冷え込んでいて真冬を思わせるほど空気は冷たく、それが刺激となったのか咳が出始め、喉の奥が閉まるような感覚がした。
ずっと喘息の調子は良かったけれど、ここ数日は気温差のせいか時々咳が止まらなくなる時があるので、念の為発作の薬がバッグに入っているかを確認してからロッカー室を出た。
そしていつも通り朝の申し送りが始まり、そこには先生の姿もある。
こちらを見ていたような気はしたけれど、メモ帳に視線を落とし気づかないふりをした。
今朝、先生から来ていたメッセージには既読もつけず返信もしなかった。
きっと心配してくれていたんだろう。でも、もうあまり優しくしないで欲しい。
つい甘えてしまいそうになるから。
またあの温もりを、求めてしまいそうになるから...