エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 北条さんのオペは無事に終わり、今のところ後遺症のようなものはみられないと聞いた。

 よかった。やっぱり先生はすごい。

 今回のオペのために、彼がたくさん準備を重ねていた事は知っている。忙しい中でも、やれる事は全てやり最善を尽くす為の努力をしていた事を。

 初めこそ、何もかも恵まれた人なのだと思っていたけれど、先生はとにかく努力を惜しまない人。神の腕は授かったものじゃない、努力を重ねた結果だ。


 オペから数日が経ち、また個室へと戻った北条さんを訪ねるとニコッと明るい笑顔で迎え入れてくれた。

 「とにかく無事に終わったみたいで気持ちも大分落ち着いたわ。まだ入院は続きそうだけど、宮野さんまたよろしくね?あなたのおかげでここでの生活も不安は無くなったの」

 「いえ、私は何も。無事に終えられて本当に良かったです。ご家族の為にも、早く元気になりましょうね」

 「そうね!頑張って息子たちをびっくりさせてみせるわ!」

 そう話す北条さんは、今まで見た中で一番素敵な笑顔だった。この調子なら本当に早く回復できそう。やっぱり家族の力はすごいなぁ。


 私はこの数日自分の家に帰り、今までのルーティンを思い出しただただそれをこなして眠るだけ。
 ベッドは冷たく、なかなか足先が温まらないのを湯たんぽを使って誤魔化し、なるべく何も考えないようにしている。

 先生からのメッセージも、ほとんど返信していない。
 麗奈さんからは私が家に戻った二日後に、やっと家を出たようねとメッセージが来ていて、本当に監視されているのかと背筋がヒヤッとした。

 でもこれで、ひとまず何かされることはないだろう。きっと家を出たのだから、別れたと思ってくれているはず。

 それに、これでよかったんだ。きっと。
 約束通り、先生が望むなら院長には会ってお見合いの件は協力する。けれど、もう必要以上に近づく必要はないし、元の生活に戻る事は約束されていたのだから、それが少し早まっただけ。

 全部予定通り。だから、もう先生の事は考えない。

 ...全部? いや、私の心以外は...予定通りだ。

 まさかこんなにも先生の存在が大きくなるなんて...ここを出た時は、全く考えもしなかった。
 小説のアイデアをもらって、それを元に書こうと思っていたのに、多分もうこのお話は書けない。

 もう忘れないと、いけないのに...

 先生は、きっと麗奈さんとは結婚しないと思う。私でもない誰かと、きっと幸せな結婚をされるのだろう。

 相手はどんな人なのかな...やっぱりどこかのご令嬢?それとも同じお医者さん?
 きっと先生と同年代で、大人っぽくて綺麗な人なんだろうなぁ...。

 まだいもしない将来の奥様を想像して、勝手に落ち込んで...バカだな、私。最初からこうなる事は分かっていたはずなのに。

 もうやめよう、何も考えずに眠らなきゃ。最近は夜中に何度も目が覚めてしまい、寝不足気味。朝と夜はだいぶ寒くなってきたし、きちんと体調管理もしないと。
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