エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
家に戻ってから今日で一週間。いつも通り出勤し事務作業をこなしていると、カウンター越しに先生がこちらに歩いて来るのが見えた。すると、彼は私の目の前で立ち止まる。
「宮野さん、来月のスケジュール印刷してもらえる?あと、昨日入院された中川さんだけど追加の検査をしたからカルテに追記しておいて。それから、メッセージに返信して欲しい」
そう言われたので、すぐに印刷しながら中川さんのカルテを開いたけれど...最後、何て言ったの?
さらっと業務連絡のような流れで言われたけれど、メッセージに返信って...私がほとんど返していないあれの事だよね...?
一瞬手が止まったけれど、先生に口頭で言われた内容を入力していく。
そしてスケジュール表を渡すと、すぐに何かをその場で書き始めた。
少し不思議に思いながらも、その様子を横目で見ながらまた作業に戻ると、手元に印刷したばかりのスケジュール表が再び戻された。
驚いて先生を見上げると「印つけておいたから。よろしく」とだけ言ってすぐに去っていった。
幸い隣に天宮さんはいなかったけれど、誰かに聞かれなかったかな...?
手元に置かれたスケジュール表には、星マークがついた日がある。そして余白に、"印の日空けておいて"と書かれており、急いで四つ折りにしてバッグにしまった。
私がほとんど返信しないから、直接渡しに来たって事かな...。
誰かに見られていないかと、さりげなく後ろを見ると風見さんとぱちっと目があった。
今の、見られていた...?そのままこちらに近づいて来るので、ドキッとしたけれど...
「宮野さん、悪いんだけどまたお昼の配膳
手伝ってもらえるかな?」
「わかりました。これだけ急ぎなので、終わり次第お手伝いしますね」
「ありがとう!助かるよ」
仕事の話でほっとしつつ、急いで作業を終わらせ風見さんと合流する。
順番に配膳をして片付けを手伝い、少し時間を置いてから同じ順番でトレーを回収にまわる。
最後に北条さんのお部屋に行くと、あと少しで食べ終わるというところだったので、お話をしながら待たせてもらった。
食欲も戻ってきたようで、七十代と高齢の域に入っているがとても順調に回復していると聞いた。
先ほど天宮さんが休憩から戻られていたので、少し時間がかかっても大丈夫かなとそのままお話していると、突然ぎゅうっと喉の奥が閉まるような感覚に襲われる。
あれ...?この感覚は...発作の、前兆?
まずいかなと思った時にはもう咳き込んでしまい、北条さんにも心配されてしまったので、とにかくまた来ますとだけ伝えトレーを待ち足早に部屋を出た。
ちょうど食事用のワゴンを運ぶ風見さんが前からきたのでトレーを戻しに向かうけれど、その間も抑えられず咳き込んでしまう。
今日は寝不足もあり朝から少し頭痛がしていたせいか、咳き込むたびに後頭部に響くような痛みにクラっときて、思わず立ち止まった。
「宮野さん!大丈夫⁈」
風見さんが駆け寄ってきて、トレーを持ってくれる。
「ゲホッゲホッ。す、すみま、せん。それ、北条さんの、です」
「うん、ありがとう。それより、ちょっと座った方がいいんじゃない?」
近くにあったソファまで支えてもらいながら歩き、ゆっくり腰掛ける。なんとか深呼吸をしようとするけれど、咳が邪魔をしてなかなか上手くできない。
薬はバッグの中だし、どうしよう...。
隣に座りトントンと背中を叩いてくれていた風見さんだけど、「ここからでもヒューヒュー聞こえる。喘息発作だよね?ちょっと待って」そう言うと、すぐにどこかに電話をかけ始めた。
会話からして呼吸器の結城先生だろう。でも、わりとフランクに話していた。知り合いだったのかな?
そんな事を考えている間にも、また咳が止まらなくなってきた。
「宮野さん、結城先生まだ外来にいるみたいで、すぐに来てって。歩けそう?」
私を支えながらペースを合わせて歩いてくれて、外来まで向かう間に電話でワゴンを相原さんにお願いし、天宮さんにも事の次第を連絡してくれている。
そんなに歩いたわけでもないのに、外来に着く頃にはハァハァと肩で息をするほどになっていた。