エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
風見さんが結城先生の診察室をノックし、返事を待たずそのままドアを開ける。
「あらら、だいぶ苦しそうだね。悪いけど風見くん、点滴用意してくれる?」
そう言いながら背を立てたベッドに寝かされ、そのまま聴診される。
「これいつから?この前の診察では大丈夫そうだったし突然じゃないでしょ?最近急に寒くなったし、また調子悪くなってきてたのに我慢してた?」
うっ...やっぱり結城先生は鋭い...。矢継ぎ早に飛んでくる質問に、何も言えないでいると...
「とりあえず吸入して点滴入れるよ。呼吸楽になったらちゃんと話してもらうからね?」
そう笑顔を向けられたけれど、目が笑っていないような...
先生の言う通りだし、また発作が起きるまで放置した私が悪いんだけど...。
その後処置室で寝かせてもらい、しばらくすると呼吸もだいぶ楽になった。
ちょうど点滴が終わる頃、結城先生が来られてもう大丈夫そうだねと針を抜いてくれた。
「それで?また発作が起こるまで我慢してたの?二週間前に来た時は問題なさそうだったし、今の薬でコントロール出来ていると思っていたけど。いつから調子悪かったの?」
「えっと...一週間くらい前から、です」
「まぁ最近朝は気温が下がるし乾燥してきたし注意が必要な時期ではあるけど、発作が起こるまで酷くなってるのは何か思い当たる?最近風邪とかひいてた?」
「いえ、風邪はひいていません」
「じゃあ、激しい運動をしたとか過労とか強いストレスがかかったとかは?」
強いストレス...思い当たるのはそれくらいだけど...。
「なんか思い当たる節がありそうだね?出来れば教えて欲しい」
「ちょっと、環境の変化といいますか...。この一週間ほどで、少しバタバタしたのは事実です...」
「じゃあストレスと過労ってところ?」
「分かりませんが、そうかもしれません...」
私の曖昧な答えに、少しの沈黙が落ちる。
「宮野さんって、何でも溜め込んで我慢しちゃうタイプでしょ?まぁ性格だから簡単には変えられないと思うし、仕方ない部分もあるとは思う。
でも、それで身体にまで影響がでて発作が起こっていたらもたないよ?理由はわからないけど、このままだとまた発作が起きると思うんだ。上手く発散したり、自分で解決するのが難しいなら何か対応を考えないと」
結城先生は俯いている私の目を覗き込んで、真剣な顔でそう話す。
わかっている。ストレスの原因はハッキリと。でも、自分で解決できるかと言われたら...難しいけど...
「はい...。思い当たる事はあるので、何とかしてみます」
とりあえずそう答えた私に、全く納得していない表情の結城先生。
「ほら、そうやって全部自分でなんとかしようとするところ。
事情はわからないけど、周りに助けを求める事は悪いことじゃないよ。宮野さんの周りには助けてくれる人、きっといっぱいいるよ?」
ちょっと考えてみて、と優しい笑顔で見送ってくれた。
本当は助けて欲しい。でも、どうしたらいいのかわからない。誰に相談していいのかも...。
とりあえず病棟に戻り、ナースステーションに居た風見さんにお礼を伝える。
「もう大丈夫なの?無理しないでよ?何かあったら俺でよければいつでも言って」
花村さんや天宮さんにも心配する言葉をかけてもらい、結城先生の言う通り私の周りには私の事を気遣ってくれる優しい人達がたくさんいるんだなと、改めて気がついた。
なんだかそれだけでも、少しだけ心が軽くなった気がした。