エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
柊哉side

 本社に着き受付で名乗ると、話は通っているようですぐに社長室へと案内された。

 「柊哉くん、久しぶりだな。話って何かあったかい?」

 加賀美社長は父親とプライベートでも親交があり、俺も何度か顔を合わせたことがある。

 「はい、突然押しかけてすみません。実は麗奈さんとの件なのですが」

 「あぁ、香月院長から聞いたかい?うちの娘が柊哉くんのことをどこかで見かけたらしく、ずいぶんと気に入ったみたいでね。
 院長も君が結婚する気配がないと心配しておられて、一度二人を会わせてみようかと言う話になってね」

 「はい。その事なのですが、僕には守りたい人がいます。なので、申し訳ありませんが麗奈さんのご期待に応える事はできません」

 「そうか...。私としても残念だが、柊哉くんにそういうお相手がいたのなら、私たちは出過ぎたまねをしてしまったね。親として、子ども達の将来が心配だったんだよ」

 「いえ、今回の件を白紙に戻して頂けるのなら構いません。
 しかし、一つお願いしたい事があります」

 俺は今日の出来事、以前にも優茉を訪ねてきていた事を話し、今後同じような事はやめてもらえるよう父親である社長からも伝えて欲しいと頼んだ。

 「麗奈がそんな事を...。君たちに迷惑をかけて申し訳なかった。私からも話しておくよ」

 すると、俺をここまで案内してからドアの横に立っていた社長の秘書だという男性が声を上げた。
 
 「あの...私もお嬢様に頼まれて、色々としてしまいました。申し訳ありませんでした」

 「どういう事だい?」

 「実は、香月先生が元交際相手にしつこく付き纏われて困っているから、その女性の事を調べて先生を助けてあげて欲しいと...。
 しかし、今の会話で全く逆だったとわかりました。申し訳ありません」

 「具体的に、彼女に何かしたのですか?」

 「お嬢様に頼まれて、彼女の住まいや家族の事を調べました。それから、彼女の動向を、少し見ていました...」

 そんな事までさせていたのか...。言葉が出てこない俺に代わり、社長の怒声が響いた。

 「なぜそんな事までしたんだ!君のやった事は法に触れてもおかしくない事だぞ。全く、麗奈も困ったものだ...。
 柊哉くん、本当に申し訳ない。お相手の女性にも、父親として麗奈がしてしまった事をきちんとお詫びがしたい」

 「...彼女は先日、持病の発作を起こしました。主治医によると、強いストレスが原因だろうとのことでした。
 そこまで彼女を追い詰めた事、麗奈さんとあなたには十分に反省してもらいたい。
 今後僕たちには関わらない事を約束して頂ければ、謝罪はけっこうです。今回の事は、父に報告するだけにとどめます」

 「柊哉くん、本当に申し訳なかった。父親である私にも責任がある。麗奈には、今後一切二人には近づかないようきつく言い聞かせる。本当に申し訳ない」

 「約束して下さい。もしも守って頂けなければ、弁護士の友人に頼んで法的措置も検討します。よろしくお願いします」

 頭を下げる二人にそう告げ、俺は社長室を後にした。

 きっと社長も麗奈さんがそこまでしていたとは全く想像もしていなかったのだろう。秘書の男性も青ざめた顔で反省しているように見えた。

 ひとまずこれで、優茉に今後危害を加えられる事はないだろう。

 しかし、優茉は心に大きな傷を負ったはずだ。 
 なんとか俺が癒してあげたい。辛い思いをさせてしまった分も、思い切り抱きしめて安心させてやりたい。

 家に戻ってきてくれるという事は、そういう事だよな?

 
< 92 / 217 >

この作品をシェア

pagetop