エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜
カスミソウ <幸福>
柊哉side

 その二日後の土曜日の明け方、ゲホッゲホッという咳の音で目が覚めた。
 昨夜は遅くなり、家に帰った時にはもう優茉は眠っていた。

 咳をしながらも眠っているようなので、身体を抱き寄せて背中をさする。少しして安定した寝息が聞こえてきたので、俺もまた眠りについた。

 しかし、一時間ほどしてまたゲホッゴホッと俺の腕の中で身体を揺らして咳をしている。
 目を開けると、優茉も起きていたようだが俺を起こさない為か、口に手を当てて咳を抑えようとしている。

 「優茉?大丈夫?」

 「ゲホッゲホッご、ごめんなさい、起こしちゃって...」

 「気にしなくていいよ。呼吸苦しい?薬持ってこようか?」

 「大丈夫、です。すぐ、治ると思います」

 そう言うので、しばらく背中を撫でていると少し落ち着いてきた。

 「優茉?ゆっくり深呼吸できる?」

 ぐっと抱き寄せて優茉の呼吸音に耳を澄ませると、微かに喘鳴が聞こえる。この前発作を起こしたばかりだし、まだあまり調子が良くなさそうだな...。

 またうとうとし始めた優茉は、寒いのか身体を丸めている。
 先程から少し違和感はあったが、そっと首筋に手を当てるとじんわりといつもより熱い体温が伝わってきた。

 けっこう熱あるな... 風邪ひいたか?

 それとも、心労がたたったかな...
 
 土曜日なので優茉は休みだが、俺はもう少ししたら起きて病院に行かなければならない。
 でも、この状態で優茉を一人にさせておくのも心配だな...。どうしようかと考えていると、今度は激しく咳き込み始めた。

 「優茉、吸入した方がいい。取ってくるから待ってて」

 彼女を離して起き上がろうとしたが、ぎゅっと俺の服を握って首を振っている。

 「んーん、まだぎゅって、してて欲しい...」

 少し寝ぼけながらそんな事を言う優茉はとんでもなく可愛いが、今は薬を取りに行かないと。
 一度ぎゅっとしてからベッドを出て、薬と体温計を持ってすぐに戻る。
 身体を起こして吸入させてから、パジャマのボタンを一つ外して体温計をはさんだ。

 えっ?と少し驚いていたが、そのまま抱き締めて計測が終わるのを待ち、ピピっと音がして見ると38.2℃。

 「熱、ありますか...?」

 「うん、8℃越えてる。咳のほかに自覚症状はある?痛いところは?」

 「えっと...、少し喉と、頭が痛い、です」

 「ちょっと待ってて」

 優茉に布団を掛け直してから自室へ行き、昔使っていた聴診器とペンライトを持って再びベッドへ戻り彼女の横に腰掛ける。

 「えっ?あ、あの、だ、大丈夫ですよ?今日一日寝ていれば治ると思いますし...」

 俺が持ってきた物をみて慌てたようにそう言って、ぐっと布団を口元まで引き上げる優茉。

 「だめ。熱も高いし、この前発作起こしたばかりだろう?さっき深呼吸した時も喘鳴聞こえていたし、少し診察させて」

 「で、でも...」

 言い淀む優茉だが、時間をかけても余計嫌がりそうなので、布団を少し下げてペンライトを構える。

 「ほら、喉みせて?」

 観念したのか、ゆっくりと少し口を開けてくれたがよく見えないので、くっと少し顎を下げる。

 「OK、いいよ。少し赤いけど、熱の原因ではなさそうだな」

 そう言いながら聴診器をはめて、優茉が抵抗する前にボタンを一つ外して素早くチェストピースを滑り込ませる。

 「ゆっくり深呼吸してて」

 ドッドッドッと速い心臓の音に混ざって喘鳴も聞こえるが、思ったよりも酷くない。

 「いいよ。少し聞こえるけど、思ったより酷くないね。とりあえず今日は家でゆっくり休んでて。俺はもう少ししたら行かなきゃいけないけど、何かあったらすぐ連絡するって約束して?」

 「わ、わかりました。今日もオペの予定入ってましたよね?頑張って下さい」

 「ありがとう。お粥作っておくから少しでも食べて?ちゃんと薬も飲んでよ?」

 「あ、ありがとう、ございます。すみません、ご飯の用意まで...」

 「気にしないで。優茉はゆっくり寝ていて」

 頭を撫でてから立ち上がり、着替えを済ませお粥を作っておく。
 家を出る前に寝室を覗くと、眠っているようなのでそっと玄関の扉を閉めた。
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