エリート脳外科医の長い恋煩い〜クールなドクターは初恋の彼女を溺愛で救いたい〜

 ピピっという電子音と、首元を触られている感覚で少しずつ意識が浮上する。
 ぼんやりと目を開けると、柊哉さんの顔が目の前にあった。

 あ、帰ってきたんだ...

 「おかえりなさい」

 「ただいま、起こしてごめん。熱はだいぶ下がったけど、まだしんどそうだな。咳は大丈夫?頭痛は?」

 頭を撫でてくれるけど、まだ病院モードの先生に問診されているようでちょっと寂しい。
 何も答えずに起き上がって、柊哉さんの胸に顔を埋めて抱きついてみる。

 「ふっ、優茉?どうしたの?」

 ぎゅっと抱きしめ返してくれて、お家モードの柔らかい表情で笑ってくれた。

 「大丈夫です。もう元気になりました」

 「ほんと?じゃあご飯作ったから食べよう?」

 一緒にリビングにいくと、いい香りがする。
 煮込みうどんを作ってくれたみたいで、さっきまであまり食欲はなかったけれど、急にお腹が減ってきた。

 「夜ご飯まで用意していただいて...先生はお仕事でお疲れなのにすみません」

 「気にしなくていいよ。優茉だっていつも仕事の後にご飯作ってくれているだろう?
 優茉みたいに上手くないし簡単なものしか作れないけど、他の家事も出来る時は俺がやるから無理しないで」

 「ありがとうございます。とっても美味しそうです」

 柔らかく煮込んであるうどんは、味が染みていてとても美味しかった。心まですっかり温まって幸せだ。


 「そういえば、この前俺が渡した予定表まだ持ってる?」

 「あ、はい。先生のお休みが書かれてあるものですよね?」

 「そう。その休みのどこかで優茉のご家族に挨拶に行きたいんだけど、どうかな?
 あと、優茉のマンションもそのままにしておくわけにいかないだろう?もうこのまま、ここに引っ越して来ないか?」

 そっか...マンションの荷物もそのままにしておけないし、家賃とかも勿体無いよね。

 でも、本当にいいのかな?

 柊哉さんと一緒に居られるのはとても嬉しいけれど、やっぱり院長に反対されてって事もありえるし...
 そうなった時に、家がないのは困ってしまう。

 そんな事を考えてしまい、すぐに返事ができなかった私をみて彼は苦笑いをする。

 「ごめん、ちょっと急ぎすぎた?もちろん優茉のペースに合わせるつもりだけど、俺はずっと一緒いたいし将来の事も一緒に考えたいと思ってる」

 「いえ、嬉しいです。でも...、本当にいいんですか?まだ院長に挨拶もしていませんし、やっぱり反対されるかも—」

 「優茉は?優茉は俺との将来は考えられない?」

 私が言い切る前に、少し寂しそうな顔でそう問われる。

 「私は、もちろん柊哉さんと同じ気持ちです。これからもずっとそばに居たいです」

 「じゃあ院長の事は関係ない。俺たちが同じ気持ちならそうしよう。たとえ反対されても、俺は優茉を手放す気はないから」

 「柊哉さん...」

 「俺は優茉に本当の婚約者になって欲しいって言ったよな?その気持ちは変わらないから。
 マンションのこと、挨拶のことも考えてみて」

 そう言って食器を持って立ち上がる。

 後片付けは一緒にやり、その後順番にお風呂に入って、ベッドでそれぞれ本を読んでいた。

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