元カレと再会ワンナイトで愛を孕んだので内緒の出産をしましたが入れ替わったらバレました
 同窓会の会場であるイングリッシュパブに30分遅れで到着した俺は、幹事に会費を払ってすぐ会場を見渡した。

 杏子は仲の良かった女友達のグループの中にいた。

 明日の午後にはもう出発なのだ。俺に躊躇している時間はない。
 思い切って杏子に声をかけることにした。

 最初は驚いた顔をしていたが、友人の手前か、はたまた大人になったからなのか、むげな扱いをされることはなかった。

 俺はバーカウンターに誘い出すことに成功した。

「げ、元気にしていたか?」
「うん……」
「そ、そうか……」

 7年も付き合っていたのに、たったの1年離れただけで会話が続かない。壁を感じる。

「そっか、北九州にいたんだ」
「ああ、ひたすら寮と工場の往復をする日々だった」
「寮……?」
「単身者は会社の寮に入れるんだよ。寮って言っても8畳のワンルームでバストイレ付き。基本的に一人暮らしと変わらないけど、食堂があるのだけは助かったな」
「食堂って寮母さんがいるの?」
「そ。醤油の味がなんか違ったけど、まあ美味かったよ」
「へぇ……。寮か……」

 寮に対して妙に感心している? いや、なんだろう?
 単身者向けの社宅がある会社など、特に珍しくもない。それが寮母のいる寮であってもおかしくないよな?
 何故か杏子がホッとしているように感じられた。
 ひょっとしたら俺の健康を心配してくれていたのか? おばあさんに育てられた杏子は世話焼きなところがあるから、それなら納得だ。

 寮の話をしたことがきっかけで、何故か分からないが突然俺たちの間にあった壁が取り払われた。

 アルコールが入り出したからなのかもしれないが、そこから一気に俺たちは会話のペースを掴んだんだ。
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