元カレと再会ワンナイトで愛を孕んだので内緒の出産をしましたが入れ替わったらバレました
「あの……わた……僕ちょっとお手洗いに……いや、トイレに……」

 男の人なら『お手洗い』じゃなくて『トイレ』と言うだろうかと思い、言い直してみる。

「あら、ここに戻ってきてくださいよ~? みんな森勢さんのお話を聞くの楽しみにしているんですから」
「あ、はい……い、いってきますっ」

 とにかくこの場から離れなくては!

 鷹也の海外研修の内容なんて知らないし。
 アメリカでの話なんてできるわけない。

 それに恋人がいるかなんて……。
 トイレを探しながら、ふと手を見てみた。
 鷹也のすらっと細いけれど、節の出た手。
 その左手の薬指には指輪がなかった。

「結婚は……まだ?」

 でも、結婚していても必ずしも指輪をしているわけではない。
 職場にもよるよね。医療系の商社ってどうなんだろう?

「お、鷹也。どこに行くんだ?」
「え?」

 レジの前を通りトイレに向かおうとすると、居酒屋の入り口から一人の男性が入ってきた。
 誰? 会社の人? でも鷹也って言ったわよね?
 うちの父と同じ世代の、ちょっと強面で身なりが立派な人だ。
 このスーツ、絶対オーダーメイドだわ。いわゆるイケオジってやつだ。

「鷹也? どうしたんだよ」

 ど、どうしよう……。
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