元カレと再会ワンナイトで愛を孕んだので内緒の出産をしましたが入れ替わったらバレました
 そこで俺は何気なく洗面所の鏡を見た。

 え? 杏子?

 思わず杏子を捕まえようとして手を伸ばす。
 しかし杏子もまた俺に向かって手を伸ばしてくる。

「鏡……」

 ここは風呂の前の洗面所で、当たり前のことだが、俺が見ているのはごく一般的なマンションの洗面所の鏡だ。
 なら、杏子が鏡に映っているということは……。

 恐る恐る、手を顔にやってみる。
 杏子が杏子の顔を触っている。
 俺は俺の手の感覚を感じている。
 つまり……。

「……俺、杏子になってる?」

 思わず鏡にグッと近づいて杏子になっている自分の顔をのぞき込む。
 何故だ? 何故俺は杏子になっているんだ?

 それに、これは俺が知っている杏子じゃない。
 長かった髪は肩までの長さに切られ、丸みを帯びていた顔の輪郭が妙にすっきりしている。

 最後に会ったあの時も、大人っぽくなったと思ったが、それは学生時代と違いちゃんと社会人としてのメイクをしていたからだった。

 この髪型のせいかもしれないが……痩せすぎじゃないのか?

「マーマー! そこにいる?」
「え」
「しゃぼんだま、とってー」
「しゃ、しゃぼんだま……」

 洗面台の子供用歯ブラシの横に、しゃぼんだまセットのようなものが置いてある。
 これか?
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