元カレと再会ワンナイトで愛を孕んだので内緒の出産をしましたが入れ替わったらバレました
 鷹也のお母様が私をのけ者にしたわけでも、身分を見せつけたわけでもなかったけれど、こんな風に仲の良さを見せつけられたことはさすがに堪えた。

 私はこの7年間で、一度も鷹也のお母さんに会ったことがなかったから。

「……じゃあ、私はこれで――」
「あ、ここは私が」

 優しげに笑って、鷹也のお母様が私の出した二千円を手渡してくれた。

 本当に私がこの光希って人の友達だと思っているのだろう。
 やるせない気持ちでお金を受け取る。

「ありがとうございます。……失礼します」
「またねー!」
「さようなら」
「……」

 喉の奥が痛くなるくらい悔しかったけれど、私は何も言わずラウンジをあとにした。
 

 それからだ。
 鷹也とうまくいかなくなったのは。

 元々、鷹也の休日はごく普通に土日。
 私は住宅メーカーらしく火曜日と水曜日が休日だった。

 鷹也とのデートを避けようと思えば永遠に避けられそうな休日のズレ。

 就職したての頃はなんとか仕事終わりに会えるように調整をしたりもしたが、鷹也に接待が入るようになると、会うことも難しくなってきていた。

 会おうと思えば会えたのだが、私は休日のズレを理由に鷹也を避け始めた。

 それはもちろん光希さんから聞いた話のせいだった。

 光希さんという許嫁が本当にいるのか。
 そんな存在がありながら私と付き合っていたのか。
 いつか実家が森勢商事だと言うつもりがあったのだろうか。
 いつか……別れるつもりだったのだろうか……。
 
 聞きたくても聞けないことを、ヒステリックに問い詰めてしまいそうな衝動に駆られてしまうから、どうしても避けてしまう。

 そしてそんなことを考えると、会うのを躊躇ってしまっていた。

 私が知りたくない事実を知ってしまいそうで怖い。
 光希さんが言っていたことが全て本当で、会うのが怖かったのだ。
< 94 / 228 >

この作品をシェア

pagetop