愛の充電器がほしい

第11話


真っ白い空間だった。


眩しい。


額の上に手のひらを乗せては
下を向いた。


青々しく広がった芝生があった。



知らない子どもたちが
楽しそうに遊んでいる。


少し離れているところには

ブランコやローラー滑り台
グローブジャングル
シーソー
ターザンロープがあった。


目の前にコロコロとボールが
足元に転がって来る。


無意識にそのボールを拾った。


「お父さーん!
 早くボール取ってこっちに投げてよ!」


 遠くで手を振って
 呼んでいる女の子がいた。


 颯太は手を振って
 走ってボールを投げた。


「紬ちゃん、ボール投げうまいね。」



「本当? ありがとう。
 学校のスポーツテスト
 1番取っただけあるかな。」



 紬の隣にいる女性の顔が
 光で見えない。


「スポーツテストで1位? 
 すごいね。」


「それほどでも〜。
 って、お父さん、
 投げたボール届いてないよ。」


「あー…ごめんごめん。」


 そう言うと、また白く光って消えた。


 夢を見ていたようだ。


 広いたくさんの遊具がある公園で
 誰かと遊んでいた。
 紬ともう1人。

 顔がぼんやりしていて
 実花なのか
 それとも別な誰かなのか
 分からなかった。


理想的な家族の風景。


公園遊びなんて行ったこともない。


年中無休のパン屋


休みなく働いては
子どもとの遊ぶ暇もない。



いつも紬の相手をするのは
颯太だけ。



実花はパン生地に夢中で
紬と遊ぶことに
興味はなかった。




颯太がいない時は
実花の母が居間で一緒に
カードゲームするくらいで
外に出て遊ぶことは少なかった。



颯太は家族3人で出かけることを
いつも夢見てた。



それは叶わない夢だった。



そう思っていた矢先の
カフェに一緒に行こうと言う
突然の提案。


実花の母が出不精の実花を
いくらでも外に出させようと
考えていた。


夫婦の仲、
家族の関係も良くなるようにと
思っていたものだった。




◇◇◇



「ごめん、紬。
 仕事が入って、行けなくなったんだ。」


 朝起きてすぐに颯太は
 紬に電話をかけた。

 無理矢理に作り上げた空間で
 いい関係が築けるわけがない。


「ええーーー。
 つむちゃん
 すごく楽しみにしてたんだよ。
 お父さんと行くの。
 久しぶりに会うし、
 カフェなんて3人で行くの
 初めてなのに…
 それなのに……。
 もういいよ、お父さんなんて
 大嫌い!!」


 子どもは正直だ。
 素直に感情を表現できる。
 その行動が羨ましいとさえ思う。

 そう言うと、実花のスマホは
 プツンと切れた。

 そこに実花のフォローさえも
 入らない。

 実花はどう話したらいいとかも
 考えられない人だ。

 パンとは向き合えるのに
 人とは向き合えないみたいだ。


 これで良かったのだろうか。


 スマホをテーブルにおいては
 ベランダに行って
 タバコに火をつけた。


 もう家族に執着するのはやめようかなと
 考え始めた。

 ただただ、生活費を仕送りして
 何の見返りもない。


 子どもを連れて会いにもこない。


 ましてや、実花の方から
 連絡なんて来たこともない。


 こちらから実家に帰っても
 歓迎をされない。



 自分は何で存在してるんだろうと
 精神的に病む時もあった。

 

 無関心。



 夫婦仲は良くなかった。


 紬のことで少し話題にあがれば
 会話する。


 紬がいなければ
 颯太はいてもいなくても
 変わらない。
 

 その関係性に耐えられなかった。


 ベランダに煙を吹かしていると
 スマホがバイブレーションで
 揺れているのが見えた。


『おはよう、颯太さん。』


「ああ、熱は?
 下がったの?」


『さっき測ったら
 37.9だった。
 解熱剤は飲んだんだけど、
 寒気して極寒にいるみたい。』


ガタガタブルブル震えながら、
ベッドにスマホを置いて
話し続けた。


「北極くらいの寒さかな。
 ダウンジャケット着ないと
 いけないよね。」


他愛のない話し相手が
心地よかった。


「今、看病しに行くよ。」


颯太はタバコを灰皿に押し付けては
早々に服に着替えて
勢いよく玄関のドアを開けた。






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