愛の充電器がほしい

第24話

美羽は
いつの間にか紬と女子トークに
話が盛り上がって
一緒にお風呂に入って
一緒のふとんに寝ることになった。

紬は、学校の友達での
好きな男の子の話や
好きなアニメの話、
ハンバーガーショップでもらった
おまけのおもちゃの話、
颯太にできなかった話を
次から次へと滝のようにどーっと
話し出す。


美羽は
これは本当はお母さんに
聞いて欲しかったこと
なんだろうなと思いながら
会ってまもないのに
たくさん出てくるなと
嫌がらずにずっと聞いていた。


その2人の様子を壁の影から
見ていた颯太は
ヤキモチを妬くくらいだった。


(紬ばっかりずるいな…。)


「紬ちゃん、明日は学校でしょう?
 そろそろ寝ないと 
 起きれなくなっちゃうよ?」

 ベッドで2人仲良く並んで
 寝ながら話をしていたら
 いつの間にか時計は9時を
 過ぎていた。

「あ、本当だ。
 もう、こんな時間。
 聞いてくれてありがとう。
 美羽…さん。
 おやすみなさい。」

 紬はふとんを顔までかぶり、
 数分で寝落ちした。
 たくさん話して、
 いつもより疲れていたようだ。
 横にいた美羽がしばらく
 熟睡するまで紬のお腹あたりを
 ポンポンと撫でていた。

 確実に寝たことがわかると
 寝室からリビングに移動した。


 リビングに行くと、
 颯太はチューハイの缶を開けて
 おつまみのさきイカをしゃぶっていた。


「紬、寝た?」


「うん、もうイビキかいて
 ぐっすり寝たよ。
 本当、お父さん、大変だね。
 お疲れさまだよ。」

 颯太は冷蔵庫から缶チューハイを
 取り出しては美羽に渡した。

「んじゃ、お疲れさまってことで
 乾杯しよ。」


「あ、これ好きな桃味だね。
 果汁入りだ。
 ありがとう。」

 ソファの横に座って、
 缶同士をぶつけた。
 一口飲んで口の中が潤った。

「紬が寝静まった後が
 ほっとするんだ。
 1日のお疲れさま会して
 明日のためにこうやって
 リフレッシュね。
 やっと、この生活が
 落ち着いてきたかな。
 もうすぐ1ヶ月なるな…。」


「聞いても良い?」


「ん?」


さきイカをパクパク食べては
チューハイを飲む。


「どうして、ここに紬ちゃんが
 来ることになったの?
 お母さんは?」

「あ、そこ聞いちゃう?
 気になるよね、それは。
 色々あって話すと長くなるけど、
 ざっくり言うと
 離婚したんだ。
 俺が親権を持ったってことになる。
 あまり元嫁のことを
 悪く言いたくないけど
 あいつは子育て不向きなんだよ。
 ごめん、そんな話聞きたくないよな。
 自分を棚に上げて言える立場ではないん
 だけどさ。」

「そっか…。」

「引いた?
 面倒だろ。
 そんな話聞くの。
 あまり、俺に関わらない方が
 幸せだと思うけど…
 美羽は物好きだよな。
 世の中に男は他にもたくさん
 いるのに。」

 膝を抱えては、頭を膝につけて
 横から颯太を見た。

「人間くさいじゃん。」

「え、俺、臭い?
 加齢臭が出てきたかなと思って、
 香水つけるようにしてたけど
 それでも臭うかな。」

 颯太は両腕を嗅いで確かめた。
 美羽は笑いをこられるのに
 必死だった。

「颯太さん、面白い!
 そう言う意味じゃないのに…。」

 目から涙が出るくらい笑う。

「へ? 違うの?」

「完璧すぎないところがいい
 ってことだよ。
 そりゃぁ。
 ちょっと、とまどいは
 あったけど、
 同じ穴のムジナかなって
 思っちゃった。
 私も、颯太さんと拓海を
 天秤にかけて
 人を比べた訳だし…。
 話聞くと、颯太さんの場合は
 奥さんから相当嫌われてる気がした。」

「え?!
 なんで?
 わかるの?」

「んー。女の勘?
 初めて私がこの部屋来た時、
 女気配が全然なかったから。
 私が奥さんなら浮気されないように
 なんか対策するかなとか考えるけど、
 何もない。
 独身、1人暮らしっぽい。
 ちなみは拓海は
 独身でもバリバリ女気配が
 ある!!
 あの人は浮気性。」

「あー、そう言うことか。
 拓海くんはモテそうな気がするもんね。
 俺は結婚の肩書きなきゃ
 全然モテないからさ。
 独身が必ずしも良いとも限らないね。」


「颯太さん、
 恋愛と結婚は別!
 あと、生活態度とか、
 浮気は無理。
 確かに拓海はモテるから
 恋愛してる時は楽しいけど
 結婚相手にはできない。
 地獄だよ。毎日帰ってこなそう。」

「ハハハ…
 本人いないからって随分言うね。
 同じ男だから何とも言えないけど、
 俺も可能性はゼロじゃないだろ。」

「颯太さんは何か違うなって思って。
 メッセージもちゃんと返してくれるし、
 遅れても返事くれるから
 紳士的って思うけど
 拓海は、突然連絡来たかと思ったら、
 しばらく放置されるし
 謝りもしないの。」

「…あ、無くなった。
 おかわり持ってくる。」


 颯太は拓海の話ばかりで
 だんだん飽きてきた。
 飲み切った空き缶を台所に持っていく。
 冷蔵庫の中から新しい缶チューハイを
 取り出した。


「そういえば、
 聞きたかったことがあって、
 颯太さんって出身どこなの?」

「えっと、
 小学生から大学までは
 埼玉県に住んでたよ。
 その前は福島にいたかな。」


「福島?
 え、苗字ってなに?」

「今は元嫁の苗字で上原だけど、
 旧姓は楠だよ。
 楠 颯太(くすのきそうた)
 離婚したから楠に戻るけど。
 何、昔の話なんて興味あるの?」

 不思議そうな顔で問いかける颯太。
 美羽は両手で口元をおさえた。
 涙が出そうになる。

「そうちゃん?!」

「は?何、急にそうちゃんって…。」

「そうちゃんでしょう?
 昔、公園で砂場遊びしたじゃない。
 わたし、みーちゃんって呼ばれてた。」

「はー?
 そんな昔の話覚えてないよ。
 人違いじゃない?
 同じ名前の他人の空似だって。」

 颯太には思い出したくない過去がある。
 当時の記憶は美羽も
 一緒に消したい過去だ。
 でも、嫌でも思い出す。


 嫌な記憶ほど
 鮮明に覚えてるものだ。



「ごめん、今日
 帰ってもらえる?」


「あ、うん。
そろそろ帰ろうとは思ってたから
お邪魔しました。」


表情が険しくなってきた颯太は、
突然美羽を追い出した。

空気を読んだ美羽は慌てて
外に出た。


幼少期の記憶が蘇る。



ーー
「颯太、もうみーちゃんと会っちゃダメ。
 絶対ダメよ!」

 颯太の母は、血走った目で言う。

「なんで?!
 せっかく仲良くなれた友達なのに。」

「何が何でもよ。
 あと、私たちお引っ越しするから
 会うこともなくなるから大丈夫よ。」

「やーだーー!
 なんで会っちゃだめなんだー!」

 幼い颯太は理由も分からず
 泣き叫んでは
 駄々をこねた。

 それでも母は意地でも
 首を縦に振ろうとはしなかった。




 まさか、その引っ越し理由が
 颯太の父と美羽の母の浮気だとは
 小学6年になってから知った。



 かなりの衝撃的だった。


ーーー


 颯太は美羽が立ち去った
 玄関のドアに背中をつけて
 悔し涙を流した。







 どうして
 あの時の『みーちゃん』なんだ。



 もう忘れたかった。



 忘れなければならなかった。






 颯太にとって生まれて初めて
 好きになった人だった。



 
 






 



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