愛の充電器がほしい
第38話
千葉県にある成田国際空港には
たくさんの飛行機が連なっていた。
ここは
国内外から
飛行機が飛び交っている。
その大きな空港の
展望デッキで
望遠鏡を覗いて飛行機が
今から飛ぶぞと
楽しんでいたのは、
ニット帽を被った紬だった。
その後ろでベンチに座りながら、
スマホで写真を撮っていたのは
父の颯太だった。
少し風が強く、
防寒着が揺れ動いていた。
空は青く澄んでいた。
「パパ!!
見て、ほら、今、飛ぶよ。
あれはなんて書いてるかな。
ANAって書いてる。
青いよ、ほらほら!!」
紬は飛行機が飛ぶ瞬間を
初めて見るため、ものすごく
興奮していた。
「そうだな。
なかなか飛行機に乗る機会ないから
飛ぶのは今のうちに
見ておいた方がいい。
乗りはしないけど!!」
「なんで?!
乗りたいよ。」
「パパが高いところ嫌いなの
知ってるだろ?
今だって、
なるべく下が見えないところに
いるんだから。」
「えーーー、乗りたいなぁ。
あーー、飛んでっちゃった。」
少し足がガクガク震えている颯太を
気にもせず、飛行機を見るのに
夢中になっていた。
「ねぇ、パパ。
ママは?
なんで、ここにいるの?」
「えー、まだ、ママじゃないのに
もうママって呼ぶの?
美羽は、今、大事なお話あるんだって。
紬と俺は、ここで終わるまで
待ってるの。」
「別に良いじゃん。
ママはママなの!!
大事な話って誰と?」
「お友達が遠くに行っちゃうんだって、
だからお見送りするって!」
「お友達って?
この間、会った男の人?」
「え?紬、会ったことあったかな?
まぁ、わからないけどね。」
颯太はあまり詳しく話したくなくて
スマホの画面を開いて、
今撮った飛行機の写真を確認した。
(ぬいぐるみ取ってくれた人かな。
気になるなぁ。
見に行こうかな。)
紬は、颯太のことを気にせずに
黙って、移動しようとした。
「紬?
どこ行くの?」
「ちょっと、トイレ行ってくる!」
「え、んじゃ、俺も行くよ。」
「大丈夫、ほら、GPS持ってるから。
何かあったら、連絡するよ!」
「あ、そっか。
んじゃ、ここで待ってるから
すぐ戻ってきて。」
「うん。わかった。」
紬は、
小さな猫型のショルダーバックから
キーホルダーがついたGPSを取り出して
颯太に見せた。
学校に通学する際にも持っている
スマホと連携していて、
ボイスメッセージのやり取りが
できるものだ。
紬は、美羽と拓海の様子が気になって、
展望デッキからトイレのある
1階のロビーまで移動した。
空港内では、
たくさんの人が行き交っている。
日本人はもちろんだが、
国際線のため、
たくさんの外国人も集まっていた。
トイレというのは、口実だが、
美羽がいないかウロウロして探した。
ベンチがたくさん並んだロビーで
拓海と美羽が話しているのが見えた。
紬は、遠くの柱の影から2人の様子を
伺っていた。
(あ、やっぱり、あの時、
ぬいぐるみを取ってくれた
お兄ちゃんだ。
スーツ着てる。
お仕事していたんだ!)
紬が最初に会った時は
パーカーとジーンズを着た
普通の格好だったため、
学生だと思っていた。
「美羽、来てたんだな。」
拓海は大きなキャリーバックを
動かして、拓海は美羽のそばに寄った。
「う、うん。
返事、ちゃんとしないとって思ってね。」
「決めたんだな?」
「うん。」
深呼吸をして、
しっかりと拓海の目を見て言う。
「アメリカ行きのこと、
結婚を前提に付き合ってほしいって
言ってくれたことは
素直に嬉しかった。
でも、私たちはやっぱり
別れたって決めたわけだったし、
長く大学時代から
最近まで5年くらいかな。
交際してきたわけなんだけど…。」
「ああ、そうだな。」
「ごめんなさい。
拓海とは、一緒にはなれないよ。」
「……マジか。
何となく、荷物の大きさ小さいし、
無理かなとは思っていたけど、
時間をかけて決めてくれたことだから、
美羽の気持ち尊重したい。
ここまで来てくれて
ありがとう。
最後にいいかな。」
「え?」
拓海は、美羽をそっと抱きしめた。
背中をポンポンポンと軽くたたく。
拓海は、
ジャケットのポケットに入っていた
航空機チケットのもう一つを
ビリビリと破った。
「え、破くの?」
「あー、これでスッキリしたわ。
これがいわゆる成田離婚だね。」
「いや、結婚してないから。」
「あ、そうか。
成田破局ね。
そうだな、ハハハ。」
アナウンスが響いた。
拓海が乗る航空機の放送だった。
「あ、そろそろ、出発の準備しないとだな。
美羽、元気でいろよ。
颯太によろしくな。」
「な?なんでそれを…。」
後ろの柱の影でじーと見つめる紬を
見つけた拓海は美羽の肩をたたく。
拓海は、紬にウィンクをして、
キャリーバックをカラカラと引いて
搭乗口に向かった。
「あ、あれ…。
紬ちゃん、近くにいたの?」
「美羽ママ…。
なんで、あのお兄ちゃんと
ぎゅーしたの?」
「え、あ、え?
えっと…
それは仲良しだから?」
「あ、そっか。
お別れが寂しいから?
そうだよね。
それでぎゅーしたんだね。」
「そ、そうそう。
そうだよ。」
(見られたくないところ、見られたなぁ。)
「そしたらさ、あのお兄ちゃんが乗る
飛行機飛ぶところ、見たほうがいいよ!!
あそこから展望デッキ行けるんだよ!!
ほらほら。」
紬は、得意げに展望デッキの場所を
案内した。
エスカレーターを登り、
さらにエレベーターに乗って
展望デッキに出ると
頬に風が打った。
「うわ、外、寒いね。」
「ほら、あっちじゃない?
ANAって書いてる飛行機じゃないの?」
「紬ちゃん、それじゃないと思うよ!
確かアメリカン航空って言ってた気が
するよ。
あれ、赤と青の模様描いてる
飛行機だよ。」
美羽は、展望デッキに着くと、
アメリカン航空の飛行機を指さした。
「えー、私、ANAの飛行機の方が
青色で好きなのになぁ。」
紬はブツブツ文句を言いながら、
颯太の座るベンチに行く。
「あれ、戻ってきたの?
ん?美羽も?
話は終わったの?」
「うん、待たせてごめんね。
無事、終わったから。
ありがとう。
紬ちゃんが拓海の乗った飛行機が
見たいって言うもんだからさ。」
「え? どういうこと?
ちょっと、紬、トイレ行ってたん
じゃないの?」
「トイレに行った後に美羽ママに会ったの。
そしたら、ゲーセンのお兄ちゃん
いたから、その飛行機探そうと思って。
パパ、ほら、あの飛行機だ!」
「……勝手に何してるんだよ。
紬は…。
ごめんな、美羽、
話の邪魔してなかった?」
「え、あぁ。
隠そうと思ったけど、
バレちゃった。
颯太さんといること。」
「……まぁ、いいじゃない。
それは。
バレた方が!!」
ドヤ顔をして、
嬉しそうな颯汰だ。
本性が出た。
「…言っちゃう?」
「言っちゃうよ。
かなり、今だって嫉妬満載だよ。
ここに来るのなんて
嫌だったんだから。
でも、良かった。
戻ってきてくれて…。
一緒にアメリカ行っちゃったら
どうしようと思って。」
「行かないよぉ。
荷物、何も持ってないよ?」
「だから、嬉しいの。」
「ねぇねぇ!
ほら、飛んでいくよ!」
「本当だ。」
拓海の乗る飛行機は
勢いを増して、空高く飛んでいく。
もう、本当に別れだと思うと
涙がほろりと出た。
拓海との思い出は
胸の中にしまっておこう。
美羽と颯太と紬は紬を
真ん中にし、
仲良く手を繋いで、展望デッキの
エレベーターで降りて行った。
上空では、長く飛行機雲が作られていた。
太陽がギラギラと輝いている。
たくさんの飛行機が連なっていた。
ここは
国内外から
飛行機が飛び交っている。
その大きな空港の
展望デッキで
望遠鏡を覗いて飛行機が
今から飛ぶぞと
楽しんでいたのは、
ニット帽を被った紬だった。
その後ろでベンチに座りながら、
スマホで写真を撮っていたのは
父の颯太だった。
少し風が強く、
防寒着が揺れ動いていた。
空は青く澄んでいた。
「パパ!!
見て、ほら、今、飛ぶよ。
あれはなんて書いてるかな。
ANAって書いてる。
青いよ、ほらほら!!」
紬は飛行機が飛ぶ瞬間を
初めて見るため、ものすごく
興奮していた。
「そうだな。
なかなか飛行機に乗る機会ないから
飛ぶのは今のうちに
見ておいた方がいい。
乗りはしないけど!!」
「なんで?!
乗りたいよ。」
「パパが高いところ嫌いなの
知ってるだろ?
今だって、
なるべく下が見えないところに
いるんだから。」
「えーーー、乗りたいなぁ。
あーー、飛んでっちゃった。」
少し足がガクガク震えている颯太を
気にもせず、飛行機を見るのに
夢中になっていた。
「ねぇ、パパ。
ママは?
なんで、ここにいるの?」
「えー、まだ、ママじゃないのに
もうママって呼ぶの?
美羽は、今、大事なお話あるんだって。
紬と俺は、ここで終わるまで
待ってるの。」
「別に良いじゃん。
ママはママなの!!
大事な話って誰と?」
「お友達が遠くに行っちゃうんだって、
だからお見送りするって!」
「お友達って?
この間、会った男の人?」
「え?紬、会ったことあったかな?
まぁ、わからないけどね。」
颯太はあまり詳しく話したくなくて
スマホの画面を開いて、
今撮った飛行機の写真を確認した。
(ぬいぐるみ取ってくれた人かな。
気になるなぁ。
見に行こうかな。)
紬は、颯太のことを気にせずに
黙って、移動しようとした。
「紬?
どこ行くの?」
「ちょっと、トイレ行ってくる!」
「え、んじゃ、俺も行くよ。」
「大丈夫、ほら、GPS持ってるから。
何かあったら、連絡するよ!」
「あ、そっか。
んじゃ、ここで待ってるから
すぐ戻ってきて。」
「うん。わかった。」
紬は、
小さな猫型のショルダーバックから
キーホルダーがついたGPSを取り出して
颯太に見せた。
学校に通学する際にも持っている
スマホと連携していて、
ボイスメッセージのやり取りが
できるものだ。
紬は、美羽と拓海の様子が気になって、
展望デッキからトイレのある
1階のロビーまで移動した。
空港内では、
たくさんの人が行き交っている。
日本人はもちろんだが、
国際線のため、
たくさんの外国人も集まっていた。
トイレというのは、口実だが、
美羽がいないかウロウロして探した。
ベンチがたくさん並んだロビーで
拓海と美羽が話しているのが見えた。
紬は、遠くの柱の影から2人の様子を
伺っていた。
(あ、やっぱり、あの時、
ぬいぐるみを取ってくれた
お兄ちゃんだ。
スーツ着てる。
お仕事していたんだ!)
紬が最初に会った時は
パーカーとジーンズを着た
普通の格好だったため、
学生だと思っていた。
「美羽、来てたんだな。」
拓海は大きなキャリーバックを
動かして、拓海は美羽のそばに寄った。
「う、うん。
返事、ちゃんとしないとって思ってね。」
「決めたんだな?」
「うん。」
深呼吸をして、
しっかりと拓海の目を見て言う。
「アメリカ行きのこと、
結婚を前提に付き合ってほしいって
言ってくれたことは
素直に嬉しかった。
でも、私たちはやっぱり
別れたって決めたわけだったし、
長く大学時代から
最近まで5年くらいかな。
交際してきたわけなんだけど…。」
「ああ、そうだな。」
「ごめんなさい。
拓海とは、一緒にはなれないよ。」
「……マジか。
何となく、荷物の大きさ小さいし、
無理かなとは思っていたけど、
時間をかけて決めてくれたことだから、
美羽の気持ち尊重したい。
ここまで来てくれて
ありがとう。
最後にいいかな。」
「え?」
拓海は、美羽をそっと抱きしめた。
背中をポンポンポンと軽くたたく。
拓海は、
ジャケットのポケットに入っていた
航空機チケットのもう一つを
ビリビリと破った。
「え、破くの?」
「あー、これでスッキリしたわ。
これがいわゆる成田離婚だね。」
「いや、結婚してないから。」
「あ、そうか。
成田破局ね。
そうだな、ハハハ。」
アナウンスが響いた。
拓海が乗る航空機の放送だった。
「あ、そろそろ、出発の準備しないとだな。
美羽、元気でいろよ。
颯太によろしくな。」
「な?なんでそれを…。」
後ろの柱の影でじーと見つめる紬を
見つけた拓海は美羽の肩をたたく。
拓海は、紬にウィンクをして、
キャリーバックをカラカラと引いて
搭乗口に向かった。
「あ、あれ…。
紬ちゃん、近くにいたの?」
「美羽ママ…。
なんで、あのお兄ちゃんと
ぎゅーしたの?」
「え、あ、え?
えっと…
それは仲良しだから?」
「あ、そっか。
お別れが寂しいから?
そうだよね。
それでぎゅーしたんだね。」
「そ、そうそう。
そうだよ。」
(見られたくないところ、見られたなぁ。)
「そしたらさ、あのお兄ちゃんが乗る
飛行機飛ぶところ、見たほうがいいよ!!
あそこから展望デッキ行けるんだよ!!
ほらほら。」
紬は、得意げに展望デッキの場所を
案内した。
エスカレーターを登り、
さらにエレベーターに乗って
展望デッキに出ると
頬に風が打った。
「うわ、外、寒いね。」
「ほら、あっちじゃない?
ANAって書いてる飛行機じゃないの?」
「紬ちゃん、それじゃないと思うよ!
確かアメリカン航空って言ってた気が
するよ。
あれ、赤と青の模様描いてる
飛行機だよ。」
美羽は、展望デッキに着くと、
アメリカン航空の飛行機を指さした。
「えー、私、ANAの飛行機の方が
青色で好きなのになぁ。」
紬はブツブツ文句を言いながら、
颯太の座るベンチに行く。
「あれ、戻ってきたの?
ん?美羽も?
話は終わったの?」
「うん、待たせてごめんね。
無事、終わったから。
ありがとう。
紬ちゃんが拓海の乗った飛行機が
見たいって言うもんだからさ。」
「え? どういうこと?
ちょっと、紬、トイレ行ってたん
じゃないの?」
「トイレに行った後に美羽ママに会ったの。
そしたら、ゲーセンのお兄ちゃん
いたから、その飛行機探そうと思って。
パパ、ほら、あの飛行機だ!」
「……勝手に何してるんだよ。
紬は…。
ごめんな、美羽、
話の邪魔してなかった?」
「え、あぁ。
隠そうと思ったけど、
バレちゃった。
颯太さんといること。」
「……まぁ、いいじゃない。
それは。
バレた方が!!」
ドヤ顔をして、
嬉しそうな颯汰だ。
本性が出た。
「…言っちゃう?」
「言っちゃうよ。
かなり、今だって嫉妬満載だよ。
ここに来るのなんて
嫌だったんだから。
でも、良かった。
戻ってきてくれて…。
一緒にアメリカ行っちゃったら
どうしようと思って。」
「行かないよぉ。
荷物、何も持ってないよ?」
「だから、嬉しいの。」
「ねぇねぇ!
ほら、飛んでいくよ!」
「本当だ。」
拓海の乗る飛行機は
勢いを増して、空高く飛んでいく。
もう、本当に別れだと思うと
涙がほろりと出た。
拓海との思い出は
胸の中にしまっておこう。
美羽と颯太と紬は紬を
真ん中にし、
仲良く手を繋いで、展望デッキの
エレベーターで降りて行った。
上空では、長く飛行機雲が作られていた。
太陽がギラギラと輝いている。