愛の充電器がほしい
第40話
夕日が沈みそうな公園で
鳩がトコトコと歩いていた。
美羽は、1人でポツンと
ブランコに乗って
ゆらゆらとしていた。
3歳の美羽は、
家にいるのが嫌で
いつも近くの公園で
1人で過ごすことが多かった。
どうして帰りたくなかったか。
それは、家で
実の両親が壮絶な
喧嘩をしているのを
見たくないからだ。
皿は飛び交う。
お酒が入ってた一升瓶は
床に転がる。
引っ越したのは3年前なのに
ずっと片付かないダンボール。
万年床。
ねずみやゴキブリがいそうなくらいの
薄暗い部屋。
お風呂があるのに
しばらく入ったことがない。
時々忘れた頃に
近所の銭湯に行く。
いつから壊れたのか
洗濯機を直すこともせずに
母はいつもコインランドリーへ
行く。
そんな環境になったのは
いつからだろうか。
美羽が生まれたばかりは
ごくごく普通の温かい家庭だったはず。
母も美羽の生まれた瞬間の顔を
写真を撮って部屋にずっと飾っていた。
でも
精神的に病みやすい性格の母は、
母乳が出なくなってから
おかしくなった。
ミルクを買いに行かないと
ドラッグストアに走るが
大人が食べる食材は二の次になる。
カップ麺やコンビニのおにぎりが増えた。
キッチンに立つことが少なくなり、
洗濯もろくにできなくなる。
父は、美羽の母乳から
ミルクに変わったとたんに
長年正社員で働いていた会社を
突然辞めて、
単発の仕事を
繰り返し、転職し続けた。
給料も不安定な生活になり始めて、
時々、水道や電気が止まることがあった。
美羽が1歳になって歩き始めた頃、
父はギャンブルにハマった。
飲むお酒も増えた。
そうこうしてるうちに
仕事をクビになった。
3歳になって
公園で1人遊びになった日。
皿が飛ぶ喧嘩になった。
父は、
母の目を離した隙に
命を絶っていた。
団地に住んでいた美羽の
父は屋上から飛び降りていた。
その様子を目の当たりにした母は、
美羽のことを考えもせずに
後を追うように一緒になって
飛び降りた。
3歳で絶望を覚えた。
信じていた両親が
一気に目の前から
消えていった。
涙も流したくても流れない。
警察や児童養護施設の人など
いろんな大人の人が
集まったが、
最終的には遠い親戚だという
今まで見たこともなかった家族に
引き取られた。
それが、
颯太の父と美羽の義母が
従兄妹だと言う話だ。
実母がどのつながりかは
聞かされていなかった。
もしかしたら、安心させようと
親戚ってことにしようと
なったのかもしれない。
腫れものにさわるような様子で
引き取られた朝井家は
大人になった今でも
距離感は縮まることはなかった。
美羽が帰りたくないのは
義理の妹である
2歳年下の
朝井絵里加《あさいえりか》との
差別が手に取るようにわかるからだ。
血のつながりがないだけで
こんなにも
差があることが悔しかった。
大人になれば
それも気にせず生きられるのにと
やっと解放されたと思っていた。
◻︎◻︎◻︎
「美羽、ほら、行こうよ。」
美羽の実家の前に
すでに車は到着していた。
運転席に颯太、助手席に美羽、
後部座席に紬が乗っていた。
これから、家の中に行って
菓子折りを渡そうとするところ。
小洒落た服装で整えて
東京から福島のこの地に
高速道路を使ってやってきたと
言うのに、
美羽の足は
思うように動かない。
約束していたわけじゃない。
自営業をしていた朝井家は、
いつでも誰かが自宅にいる。
紬は後ろから顔を出して、
「美羽ママ!!
もう、着いたんだから行こうよぉ。」
珍しく大人気ない対応の美羽に
少しいらだつ紬。
颯太は、運転席からおりて、
助手席に移動する。
「ほら、俺が、話すから。
しっかり。
頼りないと思うけど。」
「うん、かなり…。」|
「いや、うん。
そうだよね。
紬もいるしね。
会うところから複雑だもんね。
そんなこと言ったって
結局ばれるんだからさ。」
ともみくちゃと話していると、
庭で畑作業をしていた美羽の義父の
朝井和哉《あさいかずや》が
外がガヤガヤするなと
様子を見に行った。
「どなたさま?
家の前で騒ぐのは…。」
「あ、あー。
ほら…。」
颯太が、見つかってしまったという顔を
して美羽の腕を掴んで車から出した。
後部座席の紬も外に出てきた。
久しぶりに履いたヒールは痛かった。
「ただいま。」
恥ずかしそうに美羽が、
和哉に声をかけた。
目を大きくしてびっくりしていた。
鳩がトコトコと歩いていた。
美羽は、1人でポツンと
ブランコに乗って
ゆらゆらとしていた。
3歳の美羽は、
家にいるのが嫌で
いつも近くの公園で
1人で過ごすことが多かった。
どうして帰りたくなかったか。
それは、家で
実の両親が壮絶な
喧嘩をしているのを
見たくないからだ。
皿は飛び交う。
お酒が入ってた一升瓶は
床に転がる。
引っ越したのは3年前なのに
ずっと片付かないダンボール。
万年床。
ねずみやゴキブリがいそうなくらいの
薄暗い部屋。
お風呂があるのに
しばらく入ったことがない。
時々忘れた頃に
近所の銭湯に行く。
いつから壊れたのか
洗濯機を直すこともせずに
母はいつもコインランドリーへ
行く。
そんな環境になったのは
いつからだろうか。
美羽が生まれたばかりは
ごくごく普通の温かい家庭だったはず。
母も美羽の生まれた瞬間の顔を
写真を撮って部屋にずっと飾っていた。
でも
精神的に病みやすい性格の母は、
母乳が出なくなってから
おかしくなった。
ミルクを買いに行かないと
ドラッグストアに走るが
大人が食べる食材は二の次になる。
カップ麺やコンビニのおにぎりが増えた。
キッチンに立つことが少なくなり、
洗濯もろくにできなくなる。
父は、美羽の母乳から
ミルクに変わったとたんに
長年正社員で働いていた会社を
突然辞めて、
単発の仕事を
繰り返し、転職し続けた。
給料も不安定な生活になり始めて、
時々、水道や電気が止まることがあった。
美羽が1歳になって歩き始めた頃、
父はギャンブルにハマった。
飲むお酒も増えた。
そうこうしてるうちに
仕事をクビになった。
3歳になって
公園で1人遊びになった日。
皿が飛ぶ喧嘩になった。
父は、
母の目を離した隙に
命を絶っていた。
団地に住んでいた美羽の
父は屋上から飛び降りていた。
その様子を目の当たりにした母は、
美羽のことを考えもせずに
後を追うように一緒になって
飛び降りた。
3歳で絶望を覚えた。
信じていた両親が
一気に目の前から
消えていった。
涙も流したくても流れない。
警察や児童養護施設の人など
いろんな大人の人が
集まったが、
最終的には遠い親戚だという
今まで見たこともなかった家族に
引き取られた。
それが、
颯太の父と美羽の義母が
従兄妹だと言う話だ。
実母がどのつながりかは
聞かされていなかった。
もしかしたら、安心させようと
親戚ってことにしようと
なったのかもしれない。
腫れものにさわるような様子で
引き取られた朝井家は
大人になった今でも
距離感は縮まることはなかった。
美羽が帰りたくないのは
義理の妹である
2歳年下の
朝井絵里加《あさいえりか》との
差別が手に取るようにわかるからだ。
血のつながりがないだけで
こんなにも
差があることが悔しかった。
大人になれば
それも気にせず生きられるのにと
やっと解放されたと思っていた。
◻︎◻︎◻︎
「美羽、ほら、行こうよ。」
美羽の実家の前に
すでに車は到着していた。
運転席に颯太、助手席に美羽、
後部座席に紬が乗っていた。
これから、家の中に行って
菓子折りを渡そうとするところ。
小洒落た服装で整えて
東京から福島のこの地に
高速道路を使ってやってきたと
言うのに、
美羽の足は
思うように動かない。
約束していたわけじゃない。
自営業をしていた朝井家は、
いつでも誰かが自宅にいる。
紬は後ろから顔を出して、
「美羽ママ!!
もう、着いたんだから行こうよぉ。」
珍しく大人気ない対応の美羽に
少しいらだつ紬。
颯太は、運転席からおりて、
助手席に移動する。
「ほら、俺が、話すから。
しっかり。
頼りないと思うけど。」
「うん、かなり…。」|
「いや、うん。
そうだよね。
紬もいるしね。
会うところから複雑だもんね。
そんなこと言ったって
結局ばれるんだからさ。」
ともみくちゃと話していると、
庭で畑作業をしていた美羽の義父の
朝井和哉《あさいかずや》が
外がガヤガヤするなと
様子を見に行った。
「どなたさま?
家の前で騒ぐのは…。」
「あ、あー。
ほら…。」
颯太が、見つかってしまったという顔を
して美羽の腕を掴んで車から出した。
後部座席の紬も外に出てきた。
久しぶりに履いたヒールは痛かった。
「ただいま。」
恥ずかしそうに美羽が、
和哉に声をかけた。
目を大きくしてびっくりしていた。