愛の充電器がほしい
第42話
日曜日の午後のファミレスは、
ファミリーというだけ、親子連れで
賑わっていた。
まだ正式な家族ではなかったが、
美羽と和哉、颯太と紬は、
待合室にある番号順に呼ばれる名簿に
クスノキ 4人と記入した。
「美羽、
少し待ち時間
あるみたいだけど
ここで待つ感じでいいよね。」
「私は問題ないけど、
どれくらいで呼ばれるの?
長いなら、車で待つ?」
「あと2番目くらいだって。」
和哉は仲睦まじい様子を
見つめてはニコニコしていた。
横にいた紬に話しかける。
「お父さんってさ。
美羽といつもあんな感じなの?」
「…は、はい。
そうです。」
「そっかぁ。」
見たこともない笑顔を
していた美羽を見て、
和哉はホッとする。
実家で過ごしていた時は、
無理して周りに合わすことの多い
美羽。
姉の立場と、
血縁関係を配慮しては、
いい子を演じて続けてきた。
父の和哉の前では、
あまり柔らかい笑いを見えることは
少なかった。
幼少期の颯太と比べて、
大人になり、
スーツ姿が様になっていて、
本当になよっとしていた颯太なのかと
疑わしい。
「颯太くん、今、仕事って
何の仕事してるの?」
「あ、えっと、
東京で
コンピュータープログラマーの
仕事をやっています。
主にパソコンでのデスクワーク
なんですが、
本社勤務なので
最近は企業同士の接待が
多いですかね。」
「へぇー、今流行りの仕事だねぇ。
都会の人だわぁ。」
「そうですかね。」
腕組みをして、
足を組む和哉はため息をつく。
「颯太くんは、
立派な仕事してるし、
俺は、農家になるより
安心できると思うけどなぁ。
最近、
母さんは、体調が良くなくて、
感情の起伏激しいからさ。
気持ちが落ち着かないのよ。
昔のこと、気にしてるんだよね。」
横から、美羽は
顔を出して、間に入る。
「昔って、
従兄の翔太郎おじさんのこと
でしょう。」
「そう。」
「お待たせいたしました。
4名でお待ちのお客様。
ご案内いたします。」
レストランの店員さんに
声をかけられると、
4人は、そのまま、
静かに着いていった。
奥にあるふわふわのソファが置かれた
座席に案内された。
4人用にしてはテーブルは大きめだった。
「広くてちょうどいいね。」
「そうだな。」
「ご注文が決まりましたら、
ベルでお知らせください。」
店員は、水が入ったコップ4つと
箸とスプーン、フォークが入った
カトラリーケースを置いていく。
紬は楽しそうにお子様セットのメニューを
マジマジと見た。
「紬ちゃん、何食べたい?」
「私、このハンバーグセット。
ジュースが付いてくるやつかな。」
「全部食べられるのか?」
「うん。お腹空いてるから大丈夫。」
「今日は、俺が出すから、
好きなのを頼みなさい。」
「え、父さん、いいよ。
生活大変なんでしょう。
私が出すから。」
「良いから。
出させて。
たまにしか会えないんだから
この時くらい良いでしょう。」
「んじゃ、お言葉に甘えて
ごちそうになります。」
「素直でよろしい。」
和哉はメニューの金額を見て、
ドキッとしたが、気にせず
注文するように促した。
「すいません。
ありがとうございます。」
「おう、気にしないで
どんどん頼んで。」
颯太と美羽は、頼んでいいと
言われたが、遠慮しつつ、
レストランの定番でお得なメニューを
選んで頼んでいた。
和哉はミニまぐろ丼を
注文して終わらせていた。
「それだけでいいの?」
「最近、食べすぎだって
健康診断で言われたからさ。
今日はこれだけにしとくわ。」
「今日くらい内緒で食べたらいいのに。」
「そ、そうだよな。
母さん、結構、厳しいから。
お茶碗に乗るご飯も少なくて…。
食べても怒られないもんな。
見てないし。
んじゃ、マグロの刺身定食にしよう。」
「マグロは譲らないんだね。」
注文を終えて、
改めて、話の続きをした。
紬は、その間、
颯太にスマホを預けられて
イヤホンでアニメ映画を見ていた。
大人な会話はなるべく聞かない方が
いいなという配慮だ。
「んで、さっきの話の続きだけど、
俺は、別に2人は
結婚しても良いと思うの。
ただ、母さんが気にしてるのは、
昔の話で、颯太くんが引っ越したって
言ってただろ。」
「そうですね。
あの時、母から
突然、引っ越しするよって
言われました。」
「そう。
あの時、結構修羅場でねぇ…。
仲が良かったママ友だったから
困ったもんだよ。」
「私も話聞いてたよ。
颯太さんのお父さんと
ウチのお母さんが
従兄妹同士だったって。」
「うん。
そう、俺も、
その時初めて知ったよ。
あいつ、黙ってたんだよ。
知ってたのに。
後から、聞いたらさ、
学生時代に2人は
付き合ってたんだってさ。
従兄妹だけど。」
「あー、そうだったんですか。」
「お母さんと颯太さんのお父さんと
付き合ってた?!
てか、血繋がってても
付き合うんだね。
好き合ってたってことか。
ん?
ちょっと待って、お父さん。
学生時代に付き合ってただけじゃ
引っ越しにはならないよね。」
和哉は、紬の横に移動し、
イヤホンの上に
さらに両手で耳を塞いで話す。
「密会…してたらしい。」
「マジっすか。」
「ドロドロのドラマみたいじゃない。」
「どこでバレたの?!」
「母さんが、
颯太くんのお母さんと
鉢合わせしたって自宅で…。」
「うわ、最悪…。」
「あちゃー…。
父さん、やってしまったのか。」
颯太は目を覆う。
美羽は、開いた口が塞がらない。
「そういうのがあったから
関わりたくないって母さんはいうわけ。
でもさ、結局は結婚って
1番大事なのは本人同士でしょう。
親は関係ないと俺は思うわけ。」
「まぁ、確かにね。
え、でも、父さん、
良くお母さんを
許せたね。」
「それは、
美羽のおかげな部分もあるんだ。」
「私?」
「そう。血の繋がっていたら、
逆に離婚してたかもしれない。
でも、美羽は身寄りは無いし、
どこにも預け先ないんだ。
それを考えたら、俺は、
別れちゃいけないって思ってさ。
母さんの行動も目をつぶることに
したんだよ。
そもそも、恭子に
寂しい思いをさせた
俺の責任でもあったから。」
「え?」
「俺も悪さしてたからさ。」
「えーーー?!
悪さってどういうことよ。」
「もう、紬ちゃんに
話聞こえるだろ。
この話するのやめよう。」
和哉は耳を塞いだ手をよけた。
紬は夢中になって映画を見ていたため、
気にしてなかった。
「つまりだ。
親同士の関わりが少なければ、
結婚はすんなりできるんじゃないかと
思われる。」
「あ、すいません、
重要なこと言い忘れたんですが…。」
「え?何?」
「俺の両親ですが、
高校生の時に交通事故で
亡くなってます。」
「え?!
え、えーー?!」
和哉のびっくり度合いは半端なかった。
颯太を二度見する。
「でも、亡くなったからと言って、
母の償いは終わって無いですし、
良くない気がしますよね。
お母さんに認められない結婚は
幸せになれない気がします。」
「亡くなったの?
それはそれで良いんだか悪いんだか
複雑だね。
ご両親がいないのに、
しっかりしてるね。
颯太くん、
シングルファーザーってことだろ。」
「全然、そんなことないです。
毎日失敗の連続です。
仕事は失敗は少なく
できるんですが、
育児となると、
学校の持ち物渡し忘れたり、
給食着アイロンしないで持たせたら、
担任の先生に怒られまして、
まだまだです。
わからないことだらけで
恥ずかしい話、
紬と先生に怒られてます。」
「ちゃんとお父さんしてるじゃない。
俺なんて、
全部母さんに任せっきりだったから。
すごいと思うよ。
感心するわ。」
「そうだったんだ。」
美羽は、そこまでミスが多いとは
思わず、母性本能が目覚め、
なおさらやってあげたい気持ちが
込み上げた。
注文していたメニューが次々と
運ばれてきた。
4人分のメニューが揃った。
両手を合わせて、
いただきますと言うと
タイミング悪く、和哉のスマホが鳴った。
「なんだよ。
これから刺身定食ありつこうと
思ったのに。
ごめんね、みんな先に食べててね。」
和哉は、レストランの外まで出て、
電話に出た。
屋根のあるところに雨宿りしながら
電話で話していると、
弱かった雨がどんどん強くなり、
土砂降りになっていく。
「わかった、行くから。
落ち着けって。
琴音、そこで待ってて。」
屋根の淵からぽたんぽたんと
雨粒が地面に落ちていく。
和哉の表情は険しくなっていた。
美羽と颯太は、
満腹セットと言われる
ハンバーグとエビフライなど
お得にプレートに乗っている定食に
舌鼓を打っていた。
紬は、
可愛い国旗がついた
ハンバーグセットを食べて
笑顔が溢れていた。
ファミリーというだけ、親子連れで
賑わっていた。
まだ正式な家族ではなかったが、
美羽と和哉、颯太と紬は、
待合室にある番号順に呼ばれる名簿に
クスノキ 4人と記入した。
「美羽、
少し待ち時間
あるみたいだけど
ここで待つ感じでいいよね。」
「私は問題ないけど、
どれくらいで呼ばれるの?
長いなら、車で待つ?」
「あと2番目くらいだって。」
和哉は仲睦まじい様子を
見つめてはニコニコしていた。
横にいた紬に話しかける。
「お父さんってさ。
美羽といつもあんな感じなの?」
「…は、はい。
そうです。」
「そっかぁ。」
見たこともない笑顔を
していた美羽を見て、
和哉はホッとする。
実家で過ごしていた時は、
無理して周りに合わすことの多い
美羽。
姉の立場と、
血縁関係を配慮しては、
いい子を演じて続けてきた。
父の和哉の前では、
あまり柔らかい笑いを見えることは
少なかった。
幼少期の颯太と比べて、
大人になり、
スーツ姿が様になっていて、
本当になよっとしていた颯太なのかと
疑わしい。
「颯太くん、今、仕事って
何の仕事してるの?」
「あ、えっと、
東京で
コンピュータープログラマーの
仕事をやっています。
主にパソコンでのデスクワーク
なんですが、
本社勤務なので
最近は企業同士の接待が
多いですかね。」
「へぇー、今流行りの仕事だねぇ。
都会の人だわぁ。」
「そうですかね。」
腕組みをして、
足を組む和哉はため息をつく。
「颯太くんは、
立派な仕事してるし、
俺は、農家になるより
安心できると思うけどなぁ。
最近、
母さんは、体調が良くなくて、
感情の起伏激しいからさ。
気持ちが落ち着かないのよ。
昔のこと、気にしてるんだよね。」
横から、美羽は
顔を出して、間に入る。
「昔って、
従兄の翔太郎おじさんのこと
でしょう。」
「そう。」
「お待たせいたしました。
4名でお待ちのお客様。
ご案内いたします。」
レストランの店員さんに
声をかけられると、
4人は、そのまま、
静かに着いていった。
奥にあるふわふわのソファが置かれた
座席に案内された。
4人用にしてはテーブルは大きめだった。
「広くてちょうどいいね。」
「そうだな。」
「ご注文が決まりましたら、
ベルでお知らせください。」
店員は、水が入ったコップ4つと
箸とスプーン、フォークが入った
カトラリーケースを置いていく。
紬は楽しそうにお子様セットのメニューを
マジマジと見た。
「紬ちゃん、何食べたい?」
「私、このハンバーグセット。
ジュースが付いてくるやつかな。」
「全部食べられるのか?」
「うん。お腹空いてるから大丈夫。」
「今日は、俺が出すから、
好きなのを頼みなさい。」
「え、父さん、いいよ。
生活大変なんでしょう。
私が出すから。」
「良いから。
出させて。
たまにしか会えないんだから
この時くらい良いでしょう。」
「んじゃ、お言葉に甘えて
ごちそうになります。」
「素直でよろしい。」
和哉はメニューの金額を見て、
ドキッとしたが、気にせず
注文するように促した。
「すいません。
ありがとうございます。」
「おう、気にしないで
どんどん頼んで。」
颯太と美羽は、頼んでいいと
言われたが、遠慮しつつ、
レストランの定番でお得なメニューを
選んで頼んでいた。
和哉はミニまぐろ丼を
注文して終わらせていた。
「それだけでいいの?」
「最近、食べすぎだって
健康診断で言われたからさ。
今日はこれだけにしとくわ。」
「今日くらい内緒で食べたらいいのに。」
「そ、そうだよな。
母さん、結構、厳しいから。
お茶碗に乗るご飯も少なくて…。
食べても怒られないもんな。
見てないし。
んじゃ、マグロの刺身定食にしよう。」
「マグロは譲らないんだね。」
注文を終えて、
改めて、話の続きをした。
紬は、その間、
颯太にスマホを預けられて
イヤホンでアニメ映画を見ていた。
大人な会話はなるべく聞かない方が
いいなという配慮だ。
「んで、さっきの話の続きだけど、
俺は、別に2人は
結婚しても良いと思うの。
ただ、母さんが気にしてるのは、
昔の話で、颯太くんが引っ越したって
言ってただろ。」
「そうですね。
あの時、母から
突然、引っ越しするよって
言われました。」
「そう。
あの時、結構修羅場でねぇ…。
仲が良かったママ友だったから
困ったもんだよ。」
「私も話聞いてたよ。
颯太さんのお父さんと
ウチのお母さんが
従兄妹同士だったって。」
「うん。
そう、俺も、
その時初めて知ったよ。
あいつ、黙ってたんだよ。
知ってたのに。
後から、聞いたらさ、
学生時代に2人は
付き合ってたんだってさ。
従兄妹だけど。」
「あー、そうだったんですか。」
「お母さんと颯太さんのお父さんと
付き合ってた?!
てか、血繋がってても
付き合うんだね。
好き合ってたってことか。
ん?
ちょっと待って、お父さん。
学生時代に付き合ってただけじゃ
引っ越しにはならないよね。」
和哉は、紬の横に移動し、
イヤホンの上に
さらに両手で耳を塞いで話す。
「密会…してたらしい。」
「マジっすか。」
「ドロドロのドラマみたいじゃない。」
「どこでバレたの?!」
「母さんが、
颯太くんのお母さんと
鉢合わせしたって自宅で…。」
「うわ、最悪…。」
「あちゃー…。
父さん、やってしまったのか。」
颯太は目を覆う。
美羽は、開いた口が塞がらない。
「そういうのがあったから
関わりたくないって母さんはいうわけ。
でもさ、結局は結婚って
1番大事なのは本人同士でしょう。
親は関係ないと俺は思うわけ。」
「まぁ、確かにね。
え、でも、父さん、
良くお母さんを
許せたね。」
「それは、
美羽のおかげな部分もあるんだ。」
「私?」
「そう。血の繋がっていたら、
逆に離婚してたかもしれない。
でも、美羽は身寄りは無いし、
どこにも預け先ないんだ。
それを考えたら、俺は、
別れちゃいけないって思ってさ。
母さんの行動も目をつぶることに
したんだよ。
そもそも、恭子に
寂しい思いをさせた
俺の責任でもあったから。」
「え?」
「俺も悪さしてたからさ。」
「えーーー?!
悪さってどういうことよ。」
「もう、紬ちゃんに
話聞こえるだろ。
この話するのやめよう。」
和哉は耳を塞いだ手をよけた。
紬は夢中になって映画を見ていたため、
気にしてなかった。
「つまりだ。
親同士の関わりが少なければ、
結婚はすんなりできるんじゃないかと
思われる。」
「あ、すいません、
重要なこと言い忘れたんですが…。」
「え?何?」
「俺の両親ですが、
高校生の時に交通事故で
亡くなってます。」
「え?!
え、えーー?!」
和哉のびっくり度合いは半端なかった。
颯太を二度見する。
「でも、亡くなったからと言って、
母の償いは終わって無いですし、
良くない気がしますよね。
お母さんに認められない結婚は
幸せになれない気がします。」
「亡くなったの?
それはそれで良いんだか悪いんだか
複雑だね。
ご両親がいないのに、
しっかりしてるね。
颯太くん、
シングルファーザーってことだろ。」
「全然、そんなことないです。
毎日失敗の連続です。
仕事は失敗は少なく
できるんですが、
育児となると、
学校の持ち物渡し忘れたり、
給食着アイロンしないで持たせたら、
担任の先生に怒られまして、
まだまだです。
わからないことだらけで
恥ずかしい話、
紬と先生に怒られてます。」
「ちゃんとお父さんしてるじゃない。
俺なんて、
全部母さんに任せっきりだったから。
すごいと思うよ。
感心するわ。」
「そうだったんだ。」
美羽は、そこまでミスが多いとは
思わず、母性本能が目覚め、
なおさらやってあげたい気持ちが
込み上げた。
注文していたメニューが次々と
運ばれてきた。
4人分のメニューが揃った。
両手を合わせて、
いただきますと言うと
タイミング悪く、和哉のスマホが鳴った。
「なんだよ。
これから刺身定食ありつこうと
思ったのに。
ごめんね、みんな先に食べててね。」
和哉は、レストランの外まで出て、
電話に出た。
屋根のあるところに雨宿りしながら
電話で話していると、
弱かった雨がどんどん強くなり、
土砂降りになっていく。
「わかった、行くから。
落ち着けって。
琴音、そこで待ってて。」
屋根の淵からぽたんぽたんと
雨粒が地面に落ちていく。
和哉の表情は険しくなっていた。
美羽と颯太は、
満腹セットと言われる
ハンバーグとエビフライなど
お得にプレートに乗っている定食に
舌鼓を打っていた。
紬は、
可愛い国旗がついた
ハンバーグセットを食べて
笑顔が溢れていた。