愛の充電器がほしい

第56話

朝、ハッと目が覚める。
目覚まし時計よりも早かった。

ふとんから
さっと、体を起こした。

家族の中で、
誰よりも早かった。

早々にいつものスーツに着替えて、
台所に向かう。


いつまでも子どもじゃないから
たまには両親や琉久に
朝ごはんを作ってあげても
バチは当たらないなと
紬は冷蔵庫からハムとたまご
キャベツを取り出した。

InstagramやYouTube、料理アプリを
駆使して何を作るか考えた。

巣篭もりキャベツを作ることにした。

目玉焼きより料理した感がある。

鼻歌を歌いながら、
キャベツを千切りにした。


それを影から見ていたのは
琉久だった。

(姉ちゃん?!
 なんで、早く起きてんだ?
 なんだ、これは夢か。夢なのか?)

琉久は何度も目をこすり
本当にそこに紬がいるか
確かめた。
まるで妖怪を見るようだった。

「琉久、そこで何してるんだ?
 朝の準備終わったのか?」

颯太が後ろから声をかけた。
その声にびっくりして飛び上がった。
さらに後ろから美羽が言う。

「琉久、今日、三者面談あったよね。
 お母さん行くから、
 進路のことちゃんと
 考えておきなさいよ?」

「あー、はいはいはい。
 分かってますよーだ。 
 てか、それよりさ、
 姉ちゃんが朝ごはん作ってんだけど。」

「本当だ。
 珍しいな。
 良いことでもあったのかな。」

「紬が作る朝ごはん、楽しみね。」

 紬は鼻歌を歌って
 フライパンを
 ジュージュー音を立てて
 調理した。

 会社に行く楽しみができたのだ。

 デスクに座って、
 パソコンをカタカタ言いながら
 横目でチラリと確認する。

 メンターの田村が横から覗いて
 明らかに好意を寄せているんだろうなと
 分かるくらいだ。

「く、す、の、き、さん。」

 田村は紬の両肩にポンと軽く手を乗せる。

「え?あ、田村さん。
 ごめんなさい、提出するデータは
 まだ仕上がってなくて…。
 ここを追加すればどうにか
 終わるかと。」

 マウスをカチカチと押して
 慌てた様子で画面を見せる。

「そうじゃなくて!楠さん。
 今日、
 一緒にランチしに行かない?」

 紬は母が作ってくれたお弁当を
 思い出したが、
 付き合いも大事だろうと考えた。

「え、ランチ?
 良いですね!
 どこに行きます?」

「そうだなあ
 この辺だと、
 パスタが美味しいところがあって…。」

「パスタ? 
 どんなパスタがあるんですか?」

「うーん、定番のナポリタンとか、
 カルボナーラ、トマトソース、
 クリームソース系のパスタだよ。
 結構種類も豊富だから
 満足するかも。行く?」

「はい。行きましょう。」

 紬は初めて
 同僚の田村に誘われた。
 入社してから3ヶ月
 経っていた。


 パスタのレストランに着くと

「楠さん、
 部長のこと
 好きなんでしょう?」

 飲んでいた水を吹いてしまう。

「え、え、え。
 私、顔に出てました?」

 テーブルの脇にあるナプキンで
 吹いた水を拭き取った。

「だってさー
 仕事中、パソコン越しに
 ずっと目をハートにして
 部長のこと見てるでしょう。
 すごい分かりやすいから。」

「いや、その、あの〜
 入社した時から
 色々と助けてくれたので
 頼り甲斐がある
 上司かなと思ってて…。
 好きかどうかは自分でも
 よく分からないですよ。
 田村さんって彼氏いるんですか?」

「急に私に振ってくる?
 って言う私も彼氏なんて
 できたことないけどね。
 2次元の世界の彼氏なら
 妄想でいるけど…。」

「え?そうなんですか。
 私も好きです。
 アニメとかゲーム。
 そう言うのばっかりだから
 友達には彼氏できないんだよって
 よく言われます。」

「なんか仲間な気がして来た。
 そういうのは。
 楠さん、話戻すけど
 部長はかなり年上じゃない?
 と言うか、
 お父さんお母さんくらいの
 年齢だと思うけど、
 そこは気にしないの?」

「そのくらい離れてるんですね。
 でもまあ、年齢っていうより
 その時の気持ちって言うか…。
 え、田村さん、
 部長って既婚者ですか?」

 パスタの注文もせずに
 話に夢中になる2人。

「…たぶん、独身だったと思うなあ。
 アメリカの支社とか国内の支社に
 行ったり来たりするから
 結婚する暇ないとかないとか
 ぼやいてた気がするけど。
 というか、楠さん。
 お昼時間無くなっちゃうよ。
 早く、パスタ注文しよう。」

「あ、そうですね。
 注文しましょう!」

2人はテーブルの脇にある
タブレットをタップして
好きなパスタを注文した。

今は電子化が進んで
商品の注文もだいぶ楽になった。

「楠さんのこと、
 応援するよ。頑張ってね。
 仕事以外のことでも相談乗るから! 
 なんて言ったって楠さんのメンターだし。
 任せなさい!」

「ありがとうございます。
 田村さんがいて
 本当助かります。
 これからもよろしくお願いします。」

 2人は終始笑い合いながら
 ランチタイムを楽しんだ。

 







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