振り返って、接吻

あ、いけない。また脳内トリップしていた。わたしの空想癖って不治の病なのかな。


「まさか、わたしに、由鶴と離れろとかしょうもないこと言おうとしてませんよね?」

「しょうもないこと?」

「ゆづと恋人なんてやってるご身分で、たかが幼馴染に怯えているとしたら、それはさすがに退屈だな、と」



口元には笑みを携えて、わたしは刻んで攻撃を撃っていく。

あのね、きれいなおねえさん。喧嘩を売るときは、相手をきちんと見定めなよ。


だって、わたし、宇田凛子だよ?


わたしと由鶴は単に同級生の付き合いではない。生徒会同士で、家族ぐるみの仲だ。しかも、うちの家族って、世間での仲良し核家族とはわけが違うし。

だから、そう簡単に離れられない。

ていうか、他人に頼まれて離れられる程度なら、とっくにわたしは由鶴を突き放している。離れられないから、こんなにも苦しいのだ。


宇田の家に生まれたことを嫌だと感じたことは一度もないけど、別に親族がめちゃくちゃ富豪であることへの有り難みはあまり感じていない。

わたしのお小遣いなんて、月曜日の朝に2千円支給だ。それって少ないわけではないかもだけど、日本屈指の資産家にしたらあんまりだと思う。

親ばかだからなんでも買ってくれるかわりに、学生のわたしに大金は持たせたくないらしい。娘が、ドラッグとかギャンブルにハマるとでも思ってるのかな。そんなわけないでしょ。


また別のことをふわふわと考えていたわたしに、だいぶ低温な怒りを堪えている彼女が口を開いた。



「離れろ、とまでは言いませんが、私たちの邪魔をするのはやめていただきたいです」

「嫌です」

「い、嫌?!」


即答した私に、彼女は驚いてそのまま繰り返した。遠回りした打ち合いになると予想していたらしいけど、そんなの時間の無駄だ。
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