振り返って、接吻
どうせ、こちらの勝利は決まっている。
「わたしが邪魔をしている自覚はありますが、ゆづもそれを望んでいるんですよ」
「そんなわけ、」
「その証拠に、由鶴は迷わず、あなたよりもわたしを選びます。どんな質問をしても、わたしを選ぶんです。好きなのも嫌いなのも、わたしだけ。
あなたもそれを分かっているから、由鶴に直接言わず、こうやって陰湿にわたしに喧嘩を売ってくるんでしょう?」
もし、ここで彼女が激昂して殴りかかってきても、こちらはかまわない。何をしたって由鶴はわたしのものだし、怪我でもして由鶴の同情を誘えたらむしろ彼女に感謝しなければならないくらいだ。
「宇田さんって、実は性格悪いんですね」
「性格の良し悪しなんてこだわっているの、ほんとうに退屈な人ですねえ」
わたしはにっこりと微笑んで、たっぷりの皮肉をぶつける。
性格なんて関係ない。わたしがわたしであるだけで、わたしという人間に価値を見出してもらいたい。それを叶えてくれるのが、わたしよりも“すごいひと”だと、なおさら良い。
深月由鶴という“すごいひと”が認めてくれるから、わたしには価値がある。
ただ、それだけだ。
性格が良くても悪くても、みんなに———由鶴に、求められたらわたしの勝ち。
「私と由鶴くんを、別れさせたいんですか?」
「え?」
「邪魔する理由って、そういうことでしょう?これまでもそうやって由鶴くんの恋愛を邪魔してきたんですか?」
嫌味が8割だけど、たぶん、純粋な疑問もそこには含まれていた。
わたしは、言葉の意味を噛み砕きながら、彼女を改めて観察してみる。大学生だから髪を染めている。アクセサリーは小さなお花のモチーフでまとめてある。自分に似合うものをよく知っている人だ。