振り返って、接吻
由鶴は、女の子に甘い。かわいがっている妹のせいもあるだろう。
昨日も、生徒会室でクーラーの冷気を直接浴びていた書記の女の子の肩に、自分のパーカーを掛けてあげていたし。女教師が運んでいた大量のノートを、何も言わずにそっと受け取って職員室まで持って行ったりする。
どうやら幼馴染は、天性の女たらしのようだ。
「もう、いいですか」
絞りだした声は、もう完全に満身創痍だ。それなのに表面は無傷なので、この女子大生はやっぱり手強い。
明らかに傷ついた顔をしているだろうわたしを伺うように、彼女は「そうですね、お時間とらせてしまってすみません」と丁寧に告げて、もうひとつ言葉をつづけた。
「お願いなのですが、宇田さんから由鶴くんに、電話をかけてもらえますか」
そろそろ迷える美少年を助け出してあげる時間らしい。わたしは頷き、[よく使う項目]から深月由鶴に電話をかけて、スマートフォンを彼女に手渡した。