振り返って、接吻
「わたしの身体を由鶴にあげるだけって、不公平じゃない?」
唇を離した宇田が、いつもより数段大人びた表情で、ちょっと拗ねたようにくちびるを尖らせる。俺は、宇田の色気というものを初めて見た気がした。
「何してほしいの?約束通り、彼女とは別れるよ」
なんだか俺、すごいクズみたい。ご令嬢のハジメテを生徒会室のソファで奪おうとしているし。
少し悩んだ様子の宇田を見下ろしながら、こっそり避妊具を装着しておく。
こんな日がくるなら俺も初めてを取っておくべきだったかなと思ったりもしたけど、そうしたらもっと手間取ったかもしれない。よかった、格好悪いところ見せなくて。
そんな男子高校生らしい思考をしていた俺に、宇田は俺に組み敷かれた状態のくせに挑発的ににっこりと微笑んだ。
「わたしのからだをあげたら、由鶴のぜんぶをわたしに頂戴?」
なんとなく宇田の思い通りになるのは悔しい。
「ごめん、痛い?」
「だい、じょうぶ、」
俺が持っているものなら、なんだって、あげるよ。そう思いながら、近くにあったリモコンに手を伸ばして、空調の温度を下げる。 宇田の丸い額にはじんわり汗の玉が浮いていた。
こんなに近くて、ふたりで溶けて。それなのに、宇田の痛みは宇田にしか分からない。
宇田が何を考えているのか分からない。無知は恥だ。いつも、そうやって、俺は知らぬ間に彼女を傷つけている。
傷つけあって、抱きしめあって、くるしくて。それでも、離れることができずにそばにいる。ここには、もう、理屈なんて存在せず、宇田凛子の引力に逆らえない俺の人生だ。
「っ、このドエス!」
「何言ってるの、俺はオマエの犬だもん」
とっくのむかしから、忠誠を誓ってるでしょ。
一生かけて、かわいがってよね。