振り返って、接吻
第4話
大人になった俺たちは、婚約発表とパーティーから逃げるように帰宅した。いや、正確に言うと宇田は逃げ出したい俺に付き合ってるだけだが。
リビングのテレビをつけたら、速報として取り上げられていた。急成長を遂げる化粧品メーカーの美人社長が副社長との婚約を発表だってさ。
SNSでもトレンド入り、芸能人からも祝福の声。宇田と俺の生い立ちや家系図とかも放送してた。この短時間でよくもまあって感じするし、勘弁してくれって感じもする。俺らは別に、芸能人でもないのに。
俺らの関係についても書かれていたけど、あのねえ、そんなに単純じゃないってばと言ってやりたい。ていうか、テレビの力を使って、俺らの本当の関係について明確な言葉にしていただきたい。今回だけ、プライバシーの侵害は見逃してあげるから早く見つけてくれ。
会社の設立当初から恋愛関係にあったのでは?という疑惑に対して、俺らのことを知る専門家的な人が「有り得ない」とコメントしたりしている。見る目あるじゃん。
婚約発表を知って、家族のメッセージグループが大荒れしている。姉兄はふつうに祝福してくれているけど、妹は「なんで教えてくれなかったの~?!」とお得意のなんでなんで攻撃を連発していた。なんでだろうな、俺も聞きたいよ。
とりあえず「子どもはまだです」とだけ送信しておいた。深月に最も長く仕えてくれている執事長なんて、嬉しくて泣いているらしい。うちの兄妹は人間らしい感情が欠如しているので、お手伝いさん一同のほうがよっぽど家族らしい。