振り返って、接吻
すると、無事にメールを送信した宇田はくすくす笑って。
「カフェオレありがとう、ダーリン」
ちょっと満足した俺は、うん、と頷いた。
俺は宇田のことが嫌いだという立場にいるので、ハニーとは呼ばない。てか、俺がハニーって呼ぶタイプじゃないのは勿論だけど、宇田自身がハニーって感じじゃないし。
俺がダーリンって感じなのかと訊かれたら、まあ、なんとも言えないけど。
「ゆづってたまにすごく可愛いよね」
そう言った宇田はにやりと笑って、怪獣みたいにクッキーを頬張った。ああ、くずを落とすなよ。
宇田はパン屋さんで売られているクッキーが好きだから、うちには常備してある。ケーキやプリンよりも日持ちがするし、もし食べきれなかったら会社に持っていけばいいし。
いつものように正面じゃなくてわざわざ隣に来た俺に、何も言ってこないのは彼女の優しさだと思う。俺は甘い言葉を返したりできないし、ただただ恥ずかしくなってソファに移動しちゃうだけだろうから。
「ねえ、宇田?」
「なあにダーリン」
甘やかすように鼓膜を撫でる相槌。
バニラ、チョコレート、抹茶の3種類から、チョコレート味のクッキーを選んで俺は手に取った。宇田のお気に入りは抹茶、次にバニラだから。
「なんで、政略結婚なの?」
「そりゃあ、政略があるからでしょうよ」
宇田の実家の宇田グループは、ホテル、芸能事務所、放送業界、医療関係、とにかく、把握できないくらい多岐に渡る事業を展開している。宇田の祖父のあたりで急成長したとか聞いた。よくわかんないけど、めちゃくちゃ経営が上手いのだと思うし、その血は、宇田も引き継いでいる。
宇田の実家は、超ハイクラスなタワーマンションの最上階。核家族、両親と宇田と妹さんの4人暮らしをしていた。