振り返って、接吻


対して俺の家は、歴史ある深月の財閥だ。

もはや何で稼いで生計を立てているのか知らないけど、実家はいわゆる豪邸。ほら、庭にプールと噴水がある、典型的なやつ。誰の趣味なんだろうと子どもながらに考えていた。


そこに色んな人が住んでいる。大勢のお手伝いさんとか祖父とか祖母とか、とにかく沢山のひと。俺には姉と兄、妹もいるし、うちの父親はいっしょに食卓を囲む機会が多い。決して一般家庭とは言えないけど、広い敷地内でどこにでも温度のある実家だ。


甘やかされていたわけじゃないけど、お金にしか興味ないような冷たい家庭では無かったし、むしろ、お金の話は一切子供たちに聞かせない家庭だった。


俺は、家族が嫌いじゃない。

だからこそ。


「俺、政略で家族になりたくない」


俺の言葉を聞いた宇田は、そう言うと思ったよって顔に書いて笑った。

困ったように笑う女性が好きだけど、俺は宇田の全てお見通しな笑みがやっぱりいちばん安心するらしい。くやしいけど、けっきょく、そういうこと。


確かに、経営上手な宇田グループと世界でも名の通る深月財閥が、実質的に手を結べば、日本を揺るがすような大きな権力になる。


そんなことは誰も分かっていたけれど、俺らの家族や親族は、自分たちの利益のために俺らの結婚を使おうだなんて考えないはずだ。


それなのに、お互いの愛情を確かめもせず、そこから逃げたままに結婚を決めてもいいのだろうか。

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