振り返って、接吻
俺は、隣にある黒い瞳と視線を合わせて、口を開いた。
「どうして政略結婚なの?」
「俺たちに恋愛結婚はできないの?」
「俺が寂しがったりするから、オマエに無理させてるの?」
俺のほうばっかり口数が多いのは、たぶんこれが最初で最後。宇田は口を閉じて、柔らかな笑みを携えている。
「宇田は、俺のことなんて好きにならないの?」
隣同士に座っているせいで、いつもよりも近い距離。そこで宇田は、俺の黒い髪に手を伸ばして、ゆるく撫でた。それが妙に気持ちよくて、ざわざわと毛羽立っていた心がしっとり落ち着いてゆく。
天下無双の宇田凛子に任せていて、失敗することなんて無い。そんなのわかってるし、信じてる。
でも、宇田が何かを我慢して、俺にとっての成功を得るのは嫌だった。宇田にとっての最良の選択が、俺にとっての最高だ。
それから宇田もカフェオレを飲んで、少しだけ困ったように笑った。その表情はかなり良かったけど、その後の言葉のほうが、ずっと良かった。
「わたしは、由鶴のこと、誰よりも愛してるよ」
かちり。凛とした宇田の言葉に、ずっと足りなかったピースが、はまるような気がした。やっと、心のパズルが完成したみたいな気分。
自信に満ち溢れてる宇田が、いま、ほんのり恥じらっている。しかも、それを隠そうとしているのだ。
耳がじわりと赤く染まっているのを見つけて、かわいいな、素直に感じた。