振り返って、接吻
俺はただただ宇田からの言葉を噛み締めていた。メロンソーダの声はいつもより毒気がなくて、無添加のメロンジュースみたいだ。
「なんか言ってよ」
「ふふ、オマエって俺のこと愛してたんだーって思って」
「そこ笑う?マジで血が凍ってるんじゃないの?」
「わかんない、俺の血舐めてみる?」
「どういう思考回路してんの?」
俺は宇田の血でも舐めたいけどなーと思いながら、幸せすぎて口角が緩むのを感じた。
よく考えたら、俺ってヴァンパイアっぽいところあるかもしれない。髪黒いし肌白いし朝苦手だし。ニンニクは食べるけど。
もし棺桶に閉じ込められるなら、宇田に蓋を閉めてほしいな。宇田の顔を見たまま暗闇に飲み込まれたら、残像として宇田が瞼の裏側に映るかもしれないから。
「質問には、籍を入れたら答えるよ」
宇田は申し訳なさそうに言った。政略結婚でなきゃだめな理由は教えてくれないらしい。
たぶん、それによって、俺が政略結婚を反対する可能性があるのだろう。俺が宇田を反対するなんてよっぽどだけど、まあ、結婚ってよっぽどのことだし。
でも、もういいや。
政略結婚でも、恋愛結婚じゃなくても、俺が寂しがるから情けをかけて結婚してくれるだけでも。
少なくとも、俺らの結婚には愛が存在している。
俺のほうは、もう、物心ついた時からずっとずっとそれを捧げていたわけだから、宇田のほうがちょっとでも預けてくれるならもうじゅうぶんだ。