振り返って、接吻
その日の夜は、遅い時間にお互い壁を隔てて眠りについた。
宇田はリビングのソファ、俺は寝室のベッド。宇田を寝室に入れたのは、けっきょく一晩限りとなった。
婚約するなら、いっしょに住むほうがいいのかな、それならふたりでゆったり過ごせる部屋を探そうか。マンション購入してもいいかも。今だって同居しているようなものだと言われるかもしれないが、こちらの気の持ちようが違うのだ。
これからは、ふたりで同じベッドに寝るのだろうか。宇田ってうるさいから、嫌だな。でも、眠りにつく寸前まであの声をきいていられるのは、まあ、そんなに悪くないかもしれない。
そんな、くだらないことを考えているうちに俺は夢に堕ちていたらしい。
おかしな夢を見たような気がするけど、うまく説明できない。なんか、ふわふわと笑う幼い少女がいて、その少女に誘われた俺は“ごっこ遊び”に付き合った。現実の俺はそんなことするはずがないのに。
それから、いつも通りの早朝から宇田に起こされた。迷惑だな、と懲りずに思う。
相変わらず順位の良くない星座占いを見ながら完璧な珈琲を飲んで、俺の車で出勤した。
会社には記者たちが朝から待機していて、社交的な宇田が笑顔で質問に答えていくことになった。
そして最後に、周囲の方にご迷惑をかけてしまうので、皆様ここにいらっしゃるのはもうやめてくださいねとにっこりお得意のアルカイックスマイルを披露していた。なんだろう、怖い。