振り返って、接吻
第2話
がちゃんがちゃんがちゃん。少し前からリビングに繋がるドアの外が騒がしかったので、すでに意識は起きていた。
あれ、俺って怪獣か何か飼ってたっけ。この騒音は早朝の人間がなせる技じゃない。
今後の宇田との距離の置き方ついて悩んでいると、俺のいる寝室のドア越しに、しつこいノックが鳴り響いた。子どもか。子どもならもっと可愛いだろうけど。
「由鶴ちゃーん!起きなきゃ遅刻しちゃうよー」
……仕事、変えようかな。
なんのカバーもついていない黒い裸のスマートフォンに表示されるのは、5:30の文字。5時半。俺ね、5時半に上司から起こされてるの。どうよ、ブラック企業でしょ。
低血圧の俺はベッドから起き上がる気になれず、宇田が寝室に踏み込むことはしないのを良いことに、そのまま寝たふりを続けようとした。
だって、出勤は7時でもじゅうぶんだ。なんなら社長出勤という言葉もあるくらいだし、宇田もたまには遅刻しろよ。それが社員のためだ。
だというのに、ドア越しに張り上げた声で呼び起こされた。