振り返って、接吻
薄暗くなった部屋で、ロウソクの2つの小さな炎はかなり幻想的だった。それなのに、俺ら3人でその可愛らしいケーキを囲んでいるのが可笑しかった。
「ふたりとも、願い事は決まってる?」
ロウソクの揺れる炎の前に身を乗り出す宇田が、俺と茅根の表情を確認する。俺は浅く頷いたし、茅根はにっこりと笑って頷いていた。
それをしっかり黙視した宇田は、もう一度、正面に座る俺を見た。
俺は、はあ、と諦めたようなポーズで小さい溜息をついて(大きくため息を吐いたらロウソクの火が消える)、宇田に向かってようやく言えた。
「宇田、お誕生日おめでとう、オマエが生まれてきてくれて本当に良かった」
そして、俺は死ぬ間際に宇田に会えますように。
俺の人生がどんなものだか分からないけれど、最期に話すのは宇田が良いし、最期に触れるのは宇田が良いし、最期に目を見るのは宇田がいい。ぜんぶ、宇田がいい。
俺が心の中で願い事まで言い終わると同時に、ケーキにふうううううっと息が吹きかかる。
2つしかないので、ふにゃっと揺らめいた後にどちらのロウソクもすぐ消えた。
なんとなく、3人そろって拍手をする。ぱちぱちぱち。
ひと通りの儀式が終わった後、こんどは茅根が席を立って、部屋を明るく戻してくれた。ううう、眩しい。俺は思わず目を細めてしまう。
「よーし、ケーキを食べよう!」
宇田が声高らかに宣言すると、茅根は悪戯っ子みたいににやりと笑って提案した。
「切らずにホールのままいきませんか?」
俺と宇田は同時に各々フォークを手に取って、大きく頷く。
「「賛成」」
そして、声も揃った。