振り返って、接吻

いっただきまーす。誕生日ご本人様の宇田が先陣を切って、花弁が舞うケーキにフォークを勢いよく刺した。29歳の宇田も、明るく元気でうざそうだ。明らかに自分の口よりも大きい体積のひとくちに安心する。


「お、い、しー!!!」


口周りに白いクリームをつけたあざとい29歳に、俺は自分の口角がゆるゆるだと気付いていた。


「やばい、めちゃくちゃおいしい、ゆづも食べてみて」

「うん、いただきます」

「はやく、ほら早く」

「うん、いま食べるから」


宇田に催促されて、控えめなひとくちを食べてみる。おいしい。食レポとかできなくて申し訳ないけど、とりあえず美味しいのは分かる。くどくない甘さ。


「由鶴くんもハイチーズ」


美味しくて二口目をいこうとしたら、茅根にスマホカメラを向けられた。顔も上げず、無視だ無視。


「そういえば、朝買ってきたんですよ、ケーキうま」

「なにをー?ケーキうま!」

「これです、これ」


自分もケーキを食べてみながら、茅根は鞄の中に手を突っ込んで、一冊の雑誌を取り出した。


「ゆづたちが載ってるやつじゃん!」


それは、先日俺らが取材を受けた例の雑誌だった。俺は恥ずかしくて絶対読みたくないけど、宇田は興味津々で食いついている。

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