振り返って、接吻
「今日発売日なのに?」
「コンビニ寄ってきました」
「さすが!もう読んだ?」
「さっき少し読んでから来ました」
どうやら俺と宇田が社長室でだらだらしていた頃、茅根は自分たちの取材記事を読んでいたらしい。写真も載っていたりするんでしょ、嫌だな。黙々と美味しいケーキを食べる俺に対して、他人事の宇田は早速茅根から雑誌を受け取った。
「え、ふたりが表紙やってるの?!すごくない?」
「は?」
「え、ゆづも知らなかったの?」
「聞いてない」
慌てて覗き込んだ女性の美容雑誌の表紙に、お得意のアルカイックスマイルを浮かべる茅根と伏し目がちに薄く微笑む俺。こう見ると、なんとなく雰囲気は似ている気がしなくもない。
共通して言えるのは、ふたりとも得体のしれない微笑を浮かべている。あと、なんだかわからないけど影がある。快活さが足りない。
なぜか俺と茅根の素人が表紙に抜擢されたらしい。これ、ほんとに需要があるのかな。売れても恥ずかしいけど、売れなくても恥ずかしい。最悪でしかない。
「表紙なんて聞いてない」
思いっきり睨みつけると、絶対に申し訳ないなんて思ってないくせに、申し訳なさそうに眉を下げて茅根が言った。
「ごめんね、うちの商品のメイク紹介だけの特集ページを作るって約束で、表紙許可しちゃったんです」
「商品のこと持ち出すのはずるい」
「最初は副社長ひとりで表紙をお願いされたんですからね、それはさすがに難しいってお断りしました」
「そんな日には、俺は迷わず死ぬからな」
「プロの目から見ても、稀に見るハイレベルなルックスだそうですよ副社長」
比喩とか脅しとか冗談じゃなくて、いつか俺のキメた顔のどアップが雑誌の表紙になっていたらマジで死ぬと思う。ていうか、いっそのこと殺してくれ。
そもそも、俺はそんなに高い評価をされる程の容姿ではない。なんの癖も味もないような顔立ちだし。いま、そういうのが流行りなの?わからないな。