振り返って、接吻
すると慌てて上司へのめちゃくちゃ失礼な反応を詫びながら、彼女はノートパソコンを閉じて、会話に乗り出した。どいつもこいつも、きょうは仕事をする気がないらしい。
「いや、副社長から行動するなんて、信じられなくて」
「どういうこと」
「プロポーズも何もかも受け身で、オマエの好きなようにしろよって後ろから見ているだけかと見くびっていました」
「え、オマエ、どうしたの?今日は無礼講?」
「すみません、副社長がそんな男らしい一面をお持ちだったなんて存じませんでした」
完全に茅根に似てきた千賀は、マジでもう、俺にその気はないらしい。ていねいな言葉の凶器でざくざく刺してくる。
俺から千賀への評価は、仕事ができるイイ女というありがちなものだったけど、これからはちょっと考え直したほうがいいみたいだ。やれやれ。
「俺、宇田には相当尽くしてるつもりだけど」
副社長の心地いい椅子に座りながら、小さいボリュームで独りごちた。千賀は少し離れたところにいるけど、しっかり聞こえていたようだ。
彼女は涼しげな目元を緩ませて、呆れたように言った。
「女性に尽くされ慣れてる貴方の仰る〝尽くしてる〟なんて、程度が知れていますよ」
絶句。
仕事での彼女の的確な鋭い指摘は、すごく有り難くて、ほんとうに頼りにしている。そう、仕事では。
「この会社に俺の味方はいないのか」