振り返って、接吻
「なにあの渡し方!置き逃げ!かっこいい!茅根とキャーキャー盛り上がっちゃったよ!」
「仕事は?」
「もうね、超特急でやった!早くハニーに会いたくて!」
ああ、もう完敗。シンプルに可愛い。何年もいっしょにいるくせに未だに宇田への免疫が無さすぎる自分にがっかりしながらも、彼女の小さな頭を軽くぽんぽんと撫でてやった。
「ハニーじゃなくて、俺がダーリンだってば」
囁くように言い聞かせると、キャーッという悲鳴がよそから耳に入ってきた。騒音被害。
どうやら、茅根と千賀にも聞こえていたらしい。優秀な秘書ふたりは、隣に並んで、両手で口元を覆うというお揃いのポーズをしている。まじで減給してやろうか。
それから千賀がプレゼントを渡して、宇田と2人できゃっきゃと盛り上がっている間。
「午後は婚姻届提出の儀式?」
窓側に立って日光をきらきらと浴びた茅根が、俺に話しかけた。眩しくて目を細めながら、「そのつもり」と短く頷く。
「聞きたいことあったんだけどさ、」
「うん?」
「前に宇田の家行ったら、オマエのネクタイが落ちてたんだよね」
「へえ?」
「あれ、なんなの」