振り返って、接吻
そんな茅根だから思わず、俺も宇田も相談しちゃうんだろうな。
「俺のこと呼んでくれたら良かったのに」
「由鶴くんには会いたくないって言ってた、宇田社長は定期的にこれ言うよ」
「初めて知ったし普通に傷ついた」
「まあ、彼女も彼女で色々思うところはあるんだろうね」
俺は宇田に心の底から会いたくない時なんて無いからわからないな、と思った。
朝は声かけられるのうざいから嫌だけど、本当のことを言うと、顔は確認したいし。今日も元気だなって。
むかしから宇田のほうがずっと成長ははやくて、幼い俺の知らない感情を宇田は知っていた。だから、これも、もう少し大人になったら俺にも分かるのだろうか。
「とにかく、ふたりともこじらせ過ぎなんだよ」
「こじらせ?」
「由鶴くんは宇田社長に盲目的すぎて馬鹿だし、宇田社長はちょっと厄介なほどに賢すぎる」
たしかに俺は宇田に対して盲目的だと自覚している。俺の持つすべての感情は宇田に由来するし、宇田にだったら、どんな深い傷をつけられても側にいてほしい。
実際、何度も何度も傷つけられている。
しっかり宇田の意図的に、心に切り傷を浅いものから深いものまでつけられている。
それでも、跡に残ったとしても、宇田がつけた傷だと思うと大切にしようとか思ってしまうのだから、やっぱり俺は正真正銘のマゾなのだろう。
まあ、いいか。俺って宇田の犬だもん。可愛がってもらえるなら、なんでもするし。