振り返って、接吻


わたしにも、ふつうに友だちがいる。いや、ちがうかも。

わたしは友だちと、一線を置いて、丁寧に付き合ってきた。傷つけられないように、そして相手を傷つけないように。


わたしを丸ごと受け入れてくれるのは、わたしが丸ごと受け入れてあげたい相手は、この地球上で由鶴ひとりだけだ。
そう思いながら女の子たちの明るい話を聞き流して、わたしは斜め前のほうに座る由鶴の無表情を眺めていた。


「放課後、深月も遊びに行かない?」


サッカー部の男子が由鶴の肩に手を置いて誘うと、由鶴は、こてんと首を傾げて訊いた。


「あれ、サッカー部休みなの?」

「きょう雨降ってるから休みになったー!」

「よっしゃー!!」

「毎日雨でも良いのにな!」

「毎日だったら休みにならないよ、雨の中やるよ」

「それはいちばん最悪のパターンだなー」


サッカー部がまいにち休みなんて冗談じゃない。由鶴がわたしと会う時間なくなるじゃんか。毎週月曜日は部活動が休みだから、由鶴を貸してあげているのに。

学校の男の子たちと遊んだことを、由鶴は柔らかい表情で話してくれる。みんなでチーム対抗テレビゲームをしたり、ファストフードを食べたり、ボウリングをしてみたりするらしい。


わたしとはやったことのない遊びばかりで、ええ、さぞかし楽しいんでしょうね。


ただでさえ、これから試験期間に入るっていうのに。ほんとうに憂鬱だ。

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