振り返って、接吻
美しいひとは、指の先まで美しい。短く切り揃えられた爪。すっと細くて長い指は意外と節がごつい。白くて滑らかな手の甲。
繋がるわたしの手よりも大きく、妙な包容力があった。
まさかわたしがフェチみたいに手の観察をしているとは思っていないのか、彼はいつもよりゆっくりな口調で言葉を続けた。
「だから、俺に追い詰められて苦しめられたら、俺のことを殺していいからね」
綺麗な顔にも、穏やかな表情にも似合わず、物騒なことを言う由鶴に、思わず「え?」と聞き返してしまう。
たしかに由鶴さえいなければいいと思うことはあるけれど、彼を殺したいとは考えたこともなかった。と、思う。さすがに。
動揺するわたしとは裏腹に、さも当然みたいな顔と品のある口調で、なかなか重たいことを口にする由鶴。
「だって、宇田がいないところで生きるのって、死んでるのとそう変わらないし」
「いや、だとしても、」
「それならいっそのこと、宇田の顔を見て、温度に触れて、声を聞いて、それを忘れないうちに眠りたいな」
想像を超えた幼馴染の執着に、わたしは驚いて困惑を見せたけど、ちょっとずつ満たされていくのを自分では感じていた。
わたしだけしか見えていない由鶴。どんなに歪んでいても、どんなに危うく儚くても、これが、わたしたちふたりだけの現実だ。
ソファや椅子ではなく、床にぺたんと座り込むわたしたちは、数分間、お互いを見つめ合っていた。