振り返って、接吻
でも、慌てて振り切った。
俺だってもういい大人。中学生の頃とは違う。
「ちがうよ、我慢なんかしてないし、俺が我慢してたらオマエはもっと自由になってる」
「由鶴がわたしを縛り付けてるってこと?」
「そうだよ、オマエの幸せへの重荷になってると思う」
全方位無敵の宇田は、実家が大きくて、容姿の評価が高くて、勉強が得意な俺がいなかったらもっと幸せだった。品行方正な恋人なんかもできただろうし、なんでも話せる親友なんかもできたに違いない。
少なくとも、俺が宇田から奪ってきたものは、俺や彼女が思っている以上に沢山あること確かだ。
「いま由鶴が考えていることと全く同じように、わたしもめちゃくちゃ考えたし、ほんとに悩んだよ」
いつも先回りして前を進む宇田。男よりも女の子のほうが成熟が早いというのは、こういうことだろうか。
俺の考えることなんて、とっくの昔に宇田が悩み抜いて解決したことばかりだ。
ふと気付いたら、隣の席に座って仲良くやっていたカップルが、パソコンと向き合うOLに変わっていた。時間の経過。