振り返って、接吻
宇田は隣の席なんて気にせず、真っ直ぐに俺を見る。
「わたしがいなければ、もっと親しい人も増えて、世界も広くなったと思う」
「そうだとしても、宇田のいない広い世界で何があるの」
「そもそも、由鶴はわたしの下にいるにはもったいないよ」
「それは俺が好きで、」
「好きでやってることだとしても明らかにおかしいよ、由鶴ほどの人がわたしを支える役に徹してるのは」
いつになく強い口調で俺を遮った宇田に、俺は何も言えなくなった。
相談して欲しかった。どんな悩みでも、聞きたい。少しでも役に立ちたい。だってきっと、これは茅根に相談したやつだ。
あの、宇田が政略結婚を決めた夜のことを俺は忘れないだろう。
「わたしたちは一緒にいるべきじゃないのかもしれないとか、どうしようもないくらい悩んだけど、」
「でも、そんなの、」
「そう、そんなの無理なんだよね」
不安になって口を挟む俺を、宇田は包み込むように微笑んで安心させた。