振り返って、接吻
正直、学生時代から、自分の容姿が異常に好まれるということは自覚していた。こんな愛想のない男に惹かれるのは理解できないけど。
「学生のときは、中学からずっとファンクラブとかあったよねえ」
「知らない」
「わたし、いっぱい情報提供してあげるから、会長になれたよ」
宇田のしょうもないカミングアウトを聞いて、俺はゴホッとむせてしまった。良かった、こんな姿を茅根に見られたら一生笑われる。
なんとか冷静を装って、返事する。
「それは初耳だね」
「由鶴のレア写真とか見せてあげたし、由鶴の癖とか教えてあげたらあっさり会長になれたよ」
「俺を売るな、あと、俺の癖って何」
「まあ、それは教えられないけど」
いや、教えろよ。そう言葉を返そうとしたのに、ずっと頭の裏側を支配していた独り言が先にこぼれてしまった。
「俺、好かれてたんだ」
すごい迷惑なんだけど、と慌てて誤魔化しを付け足す前に、「好きじゃなかったらこんないっしょにいないでしょ」と真っ当なことを言われて、先手を打たれた。
この女は、その甘美な言葉の効力を知らない。無表情の俺をどれだけ動揺させているのか知らない。
あるいは、知ったうえで知らないふりをしているのだろう。そういう、危ういくせに絶対的な距離感を保ってきた。
だから、それでいい。
だって、同じだけいっしょにいる俺も、つまりはそういうことなのだ。
絶対、口には出さないけど。
だけど、心の奥底では、深い場所に閉じ込めた記憶がゆっくりと色を見せてくる。
———あの頃のオマエは、俺のこと、嫌いだったくせに。