振り返って、接吻
宇田のカリスマ性は、こういうときにも発揮されるみたいだ。
彼女が瞬きをひとつするだけで、空気がきらりと光った。その瞬間に俺たちは、なんでもない世間話をする〝ただの男女〟になる。
「あるとしても謝らなくていいよ」
「なんで?」
「べつに謝ってほしいことなんて無いし、それなら罪の意識を持って俺から離れないでほしい」
あんまり重たい言葉を選ばないようにしたけど、失敗かもしれない。彼女はきょとんとして、その後に笑った。
「政略結婚したら、深月財閥の由鶴のほうが立ち場が上にならざるを得ないよ」
「オマエは立ち場にこだわりすぎ」
「そうかな?でも、政略結婚なら、わたしのほうから離婚を切り出すのは、由鶴が相当な悪事を働かない限り難しいだろうね」
そう言って宇田は、にやりと悪戯っ子みたいに笑った。こう見ると、こいつも猫顔だなと思う。
ぜんぶを考慮したうえで宇田は、俺との政略結婚を選んだ。
俺のほうが立ち場が上にさせるためには、実家を使うしかなかった。スペックがどうと言うよりも、今は、彼女が社長で俺が副社長だから。
これで、政略結婚なら、俺にあらゆる選択肢があるように見える。
でも、実際は俺の選択は宇田次第だ。だって、俺は宇田から離れるなんて絶対に考えないだろうから、けっきょく俺らは。