振り返って、接吻
彼女の策略通りに絡めとられて、俺はもう身動きもできない状態だった。
「あんまり可愛いこと言うなよ」
くやしいのに多幸感が勝ってしまって、俺らしくもない生ぬるいことを言ってしまった。彼女も幸福な空気を吸って、くすくすと笑う。
「明日から毎晩ここで言うかもよ」
「そんなの、俺が溶けちゃうね」
「でも、溶けても好き」
「うん、俺も」
そして、また口付ける。
少し話してキスをして、少し話してキスをした。
子どもができたら、深月の実家の敷地に住もう。あそこは大人の手も余っているし、兄や姉の子供もいるからきっと楽しいよ。
ゆっくりとキスをする。それから、また話す。
とりあえず今はマンション買ってしまおうか。はやく子ども欲しい?うーん、どうだろ、仕事が楽しいから。きっと、由鶴に似た可愛い女の子だよ。でも、あんまり可愛いと心配だな。
これからも、宇田の隣は茨の道かもしれない。
お互いに傷つけあって、くるしくて、離れることもできない不器用さで抱きしめあう。
それでも、俺には宇田しかいない。
「わたしが由鶴を幸せにするよ」
上向きにカールした睫毛の下にある意志の強そうな瞳が俺を映す。
きちんと睫毛パーマをかけた睫毛は、彼女の精神みたいに力強く上を向いている。 ノーメイクの幼い顔に、そのギャップが彼女らしい。