振り返って、接吻
突然味がしなくなった生姜焼きを口に運ぶ機械的な動作に嘲笑が溢れ、タイミング良く通知を鳴らすスマートフォンに何故か無性に泣きたくなった。
『おつかれ、ハニー!ちゃんとお昼たべてる?』
そんな余計なお世話であるメッセージと共に、生姜焼きを食べる元気そうな宇田の写真が送られてきた。これはきっと近くの定食屋さん。
それで、撮影者はきっと茅根。
そんな皮肉な写真を送ってくる女なのに、俺は馬鹿だから。だから、離れていても同じメニューを頼んでいるだけの些細な事実に嬉しくなったりするわけだ。
『奇遇だね、俺も生姜焼きだよ』
宇田は本当にずるい。
決して結んでくれないくせに、俺を離さない。それはひどく優しい行為であり、どうしようもなく残酷だ。
その気が狂いそうな苦痛を知りながらも、俺はもう自ら壊すことなんてできない。壊されるのを待つだけ。
そんなの、もう、ずっと前から気付いていた。
でも、もう俺らは子供じゃない。冷えた体温の暖め方なんて、とっくに知ってしまっている。