振り返って、接吻
すると、ぴんぽんとチャイムが鳴った。茅根が到着したらしい。
宇田がロビーのロックを解除してやると、エレベーターに乗った茅根は間も無く玄関に来た。質の良いトレンチコートを羽織っているその男は今時のファッションモデルみたいで、やっぱり自分もちゃんとした服を買おうと思った。
「ほんともう、人使いが荒すぎるって」
お邪魔します、と革靴を脱ぎながら家にあがる茅根は、疲労を滲ませて文句を言う。
「ありがとね、おつかれさま」
湯気の立つココアを差し出しながら、俺のパーカーを着た宇田が話しかける。それにお礼を言う茅根は、相変わらず甘ったるく微笑んだ。
「なにで来たの」
邪魔をするみたいに会話に入る。わるいけど、ここは社長室じゃない。俺の家だ。
「自分で運転してきたよ」
「無事でよかったねー?」
「あ、社長にはこれ、下着と部屋着買ってきましたよ」
「うちの秘書ってば優秀すぎ」
……恥じらいはないのかオマエたちは。
ピンク色の袋を手渡す茅根が「千賀ちゃんが買ってきてくれたので、あとでお礼言っておいてね」と付け加える。こんなよく出来た秘書といたら、それは結婚できないよな宇田も。