振り返って、接吻
なに?結婚する気あるよって答えたら、オマエ、結婚してくれるの?ごめん、これはひとりごと。
駐車場の空きを探しながら、俺のほうから宇田に話しかけた。
「ひとつ、わがまま言っていい?」
なんだい?とふざけたように促す宇田。
「オマエは、俺より先に結婚しないで」
目を合わせずに言うと、宇田は笑いながら「約束するよ」と答えてくれた。
「わたしに負けるのが悔しいの?」
「オマエに何かで勝ったことないけど」
「わたしよりモテるじゃん」
「それは宇田がぜんぜんモテないだけ」
ようやく見つけたスペースに駐車しながら会話する。
宇田はくすくすと楽しそうに笑っていて、俺の我儘に機嫌を良くしたらしかった。
「えーじゃあ、さみしいんだ?」
エンジンを切りながら俺は振り返らずに頷いて、静かになった車内で弱弱しい言葉を吐く。
「そうだよ、だから、俺を置いていかないで」
どうせまだまだ結婚できないよーと言いながら、車を降りる宇田の表情は、あえて見なかった。