振り返って、接吻
それにしても、あいつほんと風呂ながい。自分の家でもないのに、1時間は超えている。女のひとってみんなそうなの?え、てか宇田って女のひとなの?違うよね。
心の中で陰口を叩いていたこと、気付かれたのかもしれない。タイミングよくがちゃりとドアが開いて、今日も生きたままの宇田が帰還した。
俺のTシャツを際どい丈で着ているそいつが、どういう神経をしているのか知りたい。
「お風呂あがったよ、入浴剤サイコーだった、ありがとう」
「ふうん、貰い物だけど」
長い髪をタオルで器用にまとめた宇田がほかほかの湯気をまとって、俺のすぐ隣に腰掛ける。このふかふかのソファには座ると立ち上がれなくなる依存性があって、朝は禁止しているほどだ。
そして、近距離におかれた宇田の首筋、生々しい白さに火照った赤み。俺のTシャツをオーバーサイズで着ているせいで見えるその項に、あっけなく視線を持っていかれた。
じわり、浮かんできた欲は。
「オマエ、つかれてるの」
会った時点で、こいつは珍しく疲弊していた。だから俺は、宇田が気に入ってるブランドの中でも、最も好んでいる香りの洒落た入浴剤を入れておいたんだ。もちろん貰い物なんかではなく、ネットであるだけ買い占めた。
「うん、ちょっとね、でももう大丈夫だよ」
「何があったの」
「だから、いくつもの会社から由鶴へのプロポーズがすごくて、」
誤魔化されてあげないといけない。わかっている。
だけどどうしても、宇田が俺に対してへたくそな隠し事をするなんて、気味が悪いし気分が悪い。
俺は無防備な首筋をなぞって、宇田の適当にはぐらかすような言葉たちを遮った。
びくっと身体を震わせた彼女は、俺の真意を探るように上目遣いに射抜いてくる。