振り返って、接吻

宇田が俺に隠すことなんて、俺に関することしかありえない。
それを俺に言えずに疲弊しているなんて、気にならないわけがない。


悪い予感に震えた俺は、そっと宇田の頬に手を伸ばそうとした。

でも、その指先がそこに触れることは叶わなず。


「っ、」


いつになく驚いた様子で、彼女が俺の手を振り払った。


「どうして拒否するの」


俺は複雑に絡み合う負の感情に揉まれて、もう、理性なんてどこにもなかった。

だって、宇田が俺から触れられるのを拒むなんて、初めてのことだ。


べつに、邪念から伸ばした手ではなかった。ただ、無意識に近い領域で、その温度に触れたくて。


「ぜんぶ、話して」

「い、やだ、ごめん、」


頑なに、口を割らない宇田に腹が立つのを通り越して精神がおかしくなりそうだ。

せめて、隠すならじょうずに隠してほしい。そんな、あからさまに、自分が何か悩んでいるのを見せつけるなら、何に悩んでいるのか教えてほしい。
俺には、宇田の、こういう面倒な人間らしさが理解できない。それが悔しいし、もどかしい。



「俺、わからないよ、言ってくれなきゃ」

「それなら、わからないままでいればいいよ」



躊躇なくTシャツの中に手を突っ込んで片手で下着のホックを外せば、宇田は驚いたように瞬きをした。

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