振り返って、接吻
理性なんてもう意味を持たない。
性急な手つきで身に着けていたものをすべて脱がせた。この行為が合意のもとであるとは言い切れなくて、むしろ、抵抗できない宇田を襲っている最低な男でしかない。
いやいやと首を横に振るその仕草さえも、俺を興奮させる毒となっている。彼女のくちびるに自分のそれを重ねてしまえば、拒絶の言葉を聞かなくて済む。
はやく、俺のところまで、堕ちてきてほしい。
後頭部に手を差し込んで熱い舌どうしを絡めれば、弱い抵抗もやめて、従順にキスに応えていく。激しい水音で、耳から犯される。
それでも全然満たされない。もっと、ほしい。ぜんぶ。
激しい行為にじんわり汗が滲んで、お互いの肌が吸い付くようにしっとりしている。
「由鶴、よく聞いて」
ベッドに寝転んだ俺に、隣の宇田は情事の後とは思えないような醒めた表情をしていた。
聞くな、と鋭い勘が教えてくれる。
聞きたくない話をしそうな女を、キスで口を塞ぐのは常套手段。
でも、今回はそんなことしてはいけないような、まるで仕事中のような空気が真剣に尖っている。
「なに、こわいよ」
何も身に着けていないままなのにまったく恥ずかしがることもなく、スイッチが入った状態の宇田。なんだかこちらが恥ずかしくなって、布団をかけた。
化粧がないせいでいつもより幾らか幼い、それでもすっかり見慣れた顔。大きな瞳が強い意志で煌めいていて、まったく穢せなかったことを知る。
さっきまでどろどろに抱き合っていたことが嘘みたいに、同じシーツに横たわる彼女は清らかだ。目が、眩む。